卜部亮吾侍従日記

『卜部亮吾侍従日記』は、昭和天皇と香淳皇后に仕えた侍従、卜部亮吾によって記された約32年間の日記です。2007年に発見され、朝日新聞社から全5巻で刊行されました。

日記の内容

卜部日記は、卜部が侍従となった1969年12月から、死去直前の2002年2月まで、ほぼ毎日書き続けられました。卜部は侍従として、昭和天皇の地方巡幸に常に付き添い、最後の地方巡幸となった1987年春の伊豆大島訪問にも同行しています。日記には、昭和天皇崩御・大喪（1989年）前後の動静や内情、特に昭和から平成への代替わりの実務を仕切った当時の経緯、そして晩年の天皇自身の姿が詳細に記録されており、貴重な歴史資料としての価値を高めています。

日記には、昭和天皇の晩年の闘病生活、先の大戦に対する悔恨、国民への気配りなど、天皇の人柄を偲ばせる記述が数多く含まれています。特に注目されるのは、昭和天皇があまり多くを語らなかった過去に対する思いや、靖国神社に対する考えなどが率直に記されている点です。ただし、1巻目と5巻目は、昭和から平成への代替わりに重点が置かれているため、抄版となっています。

報道と影響

日記の公開は、当時の社会に大きな影響を与えました。朝日新聞をはじめとする主要各紙は、日記の公開を大きく報道し、特に靖国神社への参拝を取りやめた理由がA級戦犯合祀にあるとする「富田メモ」の事実が改めて確認された点を強調しました。

日記には、以下の記述が含まれています。

1988年4月28日：「お召しがあったので吹上へ 長官拝謁のあと出たら靖国の戦犯合祀と中国の批判・奥野発言のこと」
2001年7月31日：「靖国神社の御参拝をお取り止めになった経緯 直接的にはA級戦犯合祀が御意に召さず」
2001年8月15日：「靖国合祀以来天皇陛下参拝取止めの記事 合祀を受け入れた松平永芳（宮司）は大馬鹿」

書籍情報

『昭和天皇最後の側近 卜部亮吾侍従日記』〈全5巻〉（朝日新聞社、2007年5月 - 9月）
監修：御厨貴、岩井克己
第1巻：昭和45年 - 昭和59年
第2巻：昭和60年 - 昭和61年
第3巻：昭和62年 - 昭和63年
第4巻：昭和64年 - 平成2年
第5巻：平成3年 - 平成14年
『卜部日記、富田メモで読む人間・昭和天皇』（朝日新聞出版、2008年3月）
半藤一利／御厨貴／原武史 の鼎談ほか

関連人物

入江相政：上司の侍従長。「入江相政日記」も参照。
徳川義寛：上司の侍従次長、侍従長。
宇佐美毅：宮内庁長官（第2代）
富田朝彦：宮内庁長官（第3代）
藤森昭一：宮内庁長官（第4代）- 代替わり期に在任
河井弥八：侍従次長時代の日記（岩波書店）が刊行。
田島道治：初代宮内庁長官、『昭和天皇拝謁記』（岩波書店）がある。
筑波藤麿：靖国神社宮司。
* 松平永芳：靖国神社宮司。筑波藤麿の後任。

『卜部亮吾侍従日記』は、昭和天皇の晩年の姿や、昭和から平成への時代の移り変わりを深く理解するための貴重な資料と言えるでしょう。

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