筑波藤麿

筑波藤麿：皇族から歴史学者、そして靖国神社宮司へ

筑波藤麿（つくばふじまろ、1905-1978）は、日本の歴史に特筆すべき足跡を残した人物です。皇族としての生まれ、貴族院議員としての経歴、そして靖国神社宮司としての役割、それぞれが彼の多様な側面を物語っています。本稿では、彼の生涯と業績を詳細に辿り、その人物像に迫ります。

皇族時代：特異なキャリアと歴史研究への志

1905年、山階宮菊麿王の三男として誕生した藤麿は、幼少期から特別な運命を背負っていました。明治天皇の意向により、将来は伊勢神宮の祭主となることが定められていたとされています。このため、皇族男子として初めて軍務が免除され、東京帝国大学国史学科へ進学。黒板勝美教授に師事し、歴史研究の道を歩み始めます。

1925年には、皇族として貴族院議員に就任。その後、1927年に東京帝国大学を卒業すると、東京代々木の自宅に「筑波歴史研究室」を設立し、精力的に歴史研究に取り組みます。自ら『国史学界』という年報を発行するなど、学界に貢献しました。

1928年には、臣籍降下を願い出て許可され、筑波の姓を賜り侯爵に叙せられました。宮家の第三王子であれば伯爵となるのが通常でしたが、例外的に侯爵位を得ています。この「筑波」という姓は、父である山階宮菊麿王が気象観測所を建設した筑波山に由来しており、父への深い愛情を表すものだったと言えるでしょう。臣籍降下により、貴族院議員の資格は失効しました。

降下後：貴族院議員と戦時下の生活

1928年、毛利喜代子と結婚。1935年からは侯爵議員として、貴族院廃止（1947年）まで貴族院議員を務めました。戦時中の食糧難において、多くの華族が闇市などを利用して贅沢な食生活を送る中、藤麿は徹底した節制生活を送ったと言われています。配給と自宅菜園の野菜だけで生活を送り、闇買いは一切行いませんでした。この厳格な生活ぶりは、軍人となる同世代とは異なる道を歩んだことへのコンプレックスが影響していたとする見解もあります。

戦後：靖国神社宮司と鎮霊社の建立

戦後、藤麿は1946年に靖国神社宮司に就任します。在任中には、A級戦犯合祀問題が大きな議論を呼びましたが、藤麿は慎重な対応を続け、在任中に合祀には至りませんでした。

1965年には、鎮霊社を建立。これは、靖国神社に祀られていない、様々な戦争や事変で亡くなった人々（日本人と外国人）の霊を祀るためのものです。この鎮霊社の建立は藤麿の強い希望によるものでした。しかしながら、1974年の北海道神宮放火事件を受け、鎮霊社は防犯上の理由から長らく非公開となっていましたが、2006年に一般公開されるようになりました。

多彩な活動と人物像

靖国神社宮司の職務に加え、藤麿は社団法人日本シェパード犬登録協会会長なども務めていました。歴史学者としての顔、皇族としての出自、そして靖国神社宮司としての責任、多様な立場をこなした彼の生き様は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。彼の複雑で興味深い人生は、単なる歴史上の事実を超え、現代社会における様々な課題について考えさせる契機となるでしょう。 数々の著作も残しており、歴史研究への貢献は多大でした。また、その私生活においては、妻との間に3人の子供をもうけ、長男は歴史学者（科学史家）として、次男は勧修寺門跡として、それぞれ活躍しました。

参考文献

東洋文化協会 編『皇室皇族聖鑑』 昭和篇
筑波常治『破約の時代』
読売新聞社「和書わたくしの顔･神官 / 筑波藤麿」『家庭よみうり』
坂本太郎「筑波藤麿氏を憶う」『歴史と人物』
毎日新聞「靖国」取材班『靖国戦後秘史―A級戦犯を合祀した男』
学習院大学史料館『近代皇族の記憶：山階宮家三代：写真集』
『貴族院要覧（丙）』
衆議院・参議院編『議会制度百年史 - 貴族院・参議院議員名鑑』

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