危険なメソッド

映画『危険なメソッド』解説

『危険なメソッド』（A Dangerous Method）は、デヴィッド・クローネンバーグ監督による2011年の歴史映画です。第一次世界大戦前夜を舞台に、精神科医カール・グスタフ・ユング、精神分析の創始者ジークムント・フロイト、そしてユングの患者であり後に精神分析医となるザビーナ・シュピールラインの複雑な人間関係を描いています。

概要

この映画は、ジョン・カーによる1993年のノンフィクション本『A Most Dangerous Method』を原作とした舞台劇『The Talking Cure』（2002年）を基に、クリストファー・ハンプトン自身が脚本を手がけました。クローネンバーグ監督とヴィゴ・モーテンセンは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、『イースタン・プロミス』に続き3度目のコラボレーションとなり、クローネンバーグ監督とプロデューサーのジェレミー・トーマスは『裸のランチ』、『クラッシュ』以来のタッグとなります。

ストーリー

1904年、重度のヒステリーを患うロシア系ユダヤ人女性ザビーナ・シュピールラインが、チューリッヒの精神病院ブルクヘルツリに運び込まれます。そこで働く若い精神科医カール・グスタフ・ユングは、フロイトが提唱する“談話療法”に刺激を受け、ザビーナにその治療法を試みます。治療を通じて、ザビーナは幼少期の性的トラウマを抱えていることが明らかになり、彼女はユングに特別な感情を抱くようになります。ユングもまた、ザビーナの魅力に抗えず、二人は医師と患者の関係を超えて秘密の情事を重ねるようになります。

ユングはフロイトに夢分析の結果を語る中で、自身の葛藤を吐露します。フロイトはユングの夢を分析し、彼が抑えがたい性的衝動を抱えていること、そしてその障害がフロイト自身である可能性を指摘します。一方、ザビーナはユングとの関係についてフロイトに相談の手紙を送りますが、ユングはそれを否定し、フロイトはユングを信じます。

やがて、ユングとザビーナの関係が公になり、二人は別れることになります。ザビーナはフロイトに師事し、後に結婚して子供を授かり安定した生活を送ります。しかし、ユングの妻からの手紙で、ザビーナは再びユングと再会します。ユングは今も患者を愛人にしていることを打ち明け、ザビーナは複雑な感情を抱きます。ユングとザビーナの関係は、単なる転移や逆転移だったのか、それとも真実の愛だったのか、観る者に問いかけます。

キャスト

カール・グスタフ・ユング：マイケル・ファスベンダー
ジークムント・フロイト：ヴィゴ・モーテンセン
ザビーナ・シュピールライン：キーラ・ナイトレイ
オットー・グロース：ヴァンサン・カッセル
* エマ・ユング：サラ・ガドン

製作

この映画は、イギリス、ドイツ、カナダの製作会社が共同で製作しました。当初、フロイト役にはクリストフ・ヴァルツが予定されていましたが、スケジュールの都合でヴィゴ・モーテンセンに変更されました。

公開と評価

『危険なメソッド』は、第68回ヴェネツィア国際映画祭でワールド・プレミア上映され、その後、第36回トロント国際映画祭でも上映されました。批評家からの評価も高く、Rotten Tomatoesでは78%の支持率、Metacriticでは76/100のスコアを獲得しています。

テーマ

この映画は、精神分析の黎明期を舞台に、人間の心の深淵に潜む欲望、葛藤、そして愛の複雑さを描いています。ユング、フロイト、ザビーナという実在の人物を通して、人間の精神の探求と、その過程で生まれる倫理的な問題提起を行っています。欲望と理性、倫理と愛情の間で揺れ動く登場人物たちの姿は、観る者に深い感動と問いを与えます。

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