原寿雄
日本のジャーナリストとして長く活躍した原寿雄（はら としお）は、1925年3月15日に神奈川県平塚市で生まれました。鋭い批評眼とジャーナリズムへの深い洞察を持ち、その生涯を通じて言論・報道界に大きな影響を与えました。小和田次郎というペンネームを用いてコラム集も発表しています。
平塚農業学校、海軍経理学校、旧制第一高等学校を経て、1950年に東京大学法学部を卒業。同年、社団法人共同通信社に入社し、ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせました。入社後は、新聞労働組合連合（新聞労連）の副委員長を務めたほか、共同通信社内では社会部記者として現場経験を積み、海外特派員としてバンコク支局長を務めました。その後、外信部長を経て、1977年には編集局長に昇進し、報道の中枢を担います。さらに1985年には専務理事・編集主幹となり、共同通信社の論調や編集方針に大きな影響力を持つ立場となりました。1986年から1992年にかけては、共同通信社の事業部門である株式会社共同通信社の社長も兼任しました。
原氏のジャーナリズムに対する考え方の核にあったのは、「権力監視」という役割です。特に新聞や放送といった組織的なジャーナリズムの存在意義を強調し、その独立性と道義性の重要性を説きました。過去の重要な局面でも、自身の立場を明確にして発言しています。例えば、1960年の日米安全保障条約改定を巡る論争では、新聞労連副委員長として安保改定に反対の立場をとり、改定賛成や政府追随の姿勢を見せたとして、当時の朝日新聞社とその幹部を厳しく批判しました。当時の新聞労連事務所には、国際的なジャーナリスト組織への代表派遣を機に結成された日本ジャーナリスト会議（JCJ）の事務所が同居していたという背景も指摘しています。また、社会主義圏における中ソ対立の時期には、共同通信の社会部次長として、当時の朝日新聞社長に対し親中路線を批判する書簡を送るなど、ソ連寄りと見られる姿勢を示したこともありました。
近年では、ジャーナリズムの倫理にも厳しく、2007年に一部で検討された大連立構想に関連し、現役の新聞人が政治活動を行ったことについて、日本のジャーナリズムを代表する立場の人物による倫理違反であると断じました。さらに、読売新聞以外のメディアがこの問題を厳しく批判しなかったことも問題視しています。
インターネットが普及し、新聞の読者や広告が減少していく状況についても、原氏は積極的に議論を展開しました。彼は、情報収集力、調査・分析力、そして特定の利害に左右されない高い道義性という点で、新聞ジャーナリズムはインターネットよりも優れていると主張しました。民主主義社会においてジャーナリズムは不可欠であるとし、新聞事業を維持するために再販制度や特殊指定制度といった既存の枠組みの重要性を擁護しました。さらに、日本でも欧米諸国のように、社会文化政策として新聞ジャーナリズムへの公的支援を行うべきだと強く提言しました。具体的な支援策として、税制上の優遇措置、ジャーナリズムの重要性を学ぶカリキュラムの強化、さらには15歳の子どもたちへの新聞の1年間無料配布などを提案し、これらを実現するための費用は年間わずか500億円程度で足りると試算しました。
共同通信社での役職のほかにも、多方面で言論・報道の公正性に関わる公的な役割を担いました。神奈川県公文書公開審査会会長、1994年からは日本民間放送連盟放送番組調査会委員長、2000年からは放送倫理・番組向上機構（BPO）の「放送と青少年に関する委員会」委員長、2001年からは朝日新聞報道と人権委員会委員などを務め、メディアの自主規制や倫理向上、情報公開の推進に寄与しました。
2007年には、ジャーナリスト仲間らによって設立された「原さん、永井さんをNHK会長候補に推薦する会」から、時のNHK会長の後任候補として推薦を受けました。この推薦文では、彼が「日本における言論・報道界のご意見番的存在で、卓越した見識と知性を兼ね備えたジャーナリスト・文化人」であると称えられています。
晩年もジャーナリズムに関する発言を続けましたが、2017年11月30日午後6時5分、胸部大動脈瘤破裂のため、神奈川県藤沢市内の病院でその生涯を終えました。享年92歳でした。また、憲法擁護の市民運動である「九条の会」の活動にも賛同し、その傘下にある「マスコミ九条の会」の呼びかけ人としても名を連ねていました。
原氏のジャーナリズム論は多岐にわたり、多くの著作として結実しています。主な単著には以下のものがあります。
『デスク日記』（小和田次郎名義、みすず書房）シリーズ
『ジャーナリストへの条件』（小和田次郎名義、蝸牛社）
『新聞記者―私の仕事』（東洋経済新報社）
『新聞記者の処世術』（晩聲社）
『新しいジャーナリストたちへ』（晩聲社）
『歪んだ鏡―日本の新聞とテレビ』（アドバンテージサーバー）
『ジャーナリズムは変わる』（晩聲社）
『ジャーナリズムの思想』（岩波新書）
『ジャーナリズムの世界に生きて』（かわさき市民アカデミー出版部）
『ジャーナリズムの可能性』（岩波新書）
『ジャーナリズムに生きて』（岩波現代文庫）
『原寿雄自撰 デスク日記 1963～68』（小和田次郎名義、弓立社）
* 『安倍政権とジャーナリズムの覚悟』（岩波ブックレット）
これらの著作や活動を通じて、原寿雄は日本のジャーナリズムのあり方について問いを投げかけ続けました。
平塚農業学校、海軍経理学校、旧制第一高等学校を経て、1950年に東京大学法学部を卒業。同年、社団法人共同通信社に入社し、ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせました。入社後は、新聞労働組合連合（新聞労連）の副委員長を務めたほか、共同通信社内では社会部記者として現場経験を積み、海外特派員としてバンコク支局長を務めました。その後、外信部長を経て、1977年には編集局長に昇進し、報道の中枢を担います。さらに1985年には専務理事・編集主幹となり、共同通信社の論調や編集方針に大きな影響力を持つ立場となりました。1986年から1992年にかけては、共同通信社の事業部門である株式会社共同通信社の社長も兼任しました。
原氏のジャーナリズムに対する考え方の核にあったのは、「権力監視」という役割です。特に新聞や放送といった組織的なジャーナリズムの存在意義を強調し、その独立性と道義性の重要性を説きました。過去の重要な局面でも、自身の立場を明確にして発言しています。例えば、1960年の日米安全保障条約改定を巡る論争では、新聞労連副委員長として安保改定に反対の立場をとり、改定賛成や政府追随の姿勢を見せたとして、当時の朝日新聞社とその幹部を厳しく批判しました。当時の新聞労連事務所には、国際的なジャーナリスト組織への代表派遣を機に結成された日本ジャーナリスト会議（JCJ）の事務所が同居していたという背景も指摘しています。また、社会主義圏における中ソ対立の時期には、共同通信の社会部次長として、当時の朝日新聞社長に対し親中路線を批判する書簡を送るなど、ソ連寄りと見られる姿勢を示したこともありました。
近年では、ジャーナリズムの倫理にも厳しく、2007年に一部で検討された大連立構想に関連し、現役の新聞人が政治活動を行ったことについて、日本のジャーナリズムを代表する立場の人物による倫理違反であると断じました。さらに、読売新聞以外のメディアがこの問題を厳しく批判しなかったことも問題視しています。
インターネットが普及し、新聞の読者や広告が減少していく状況についても、原氏は積極的に議論を展開しました。彼は、情報収集力、調査・分析力、そして特定の利害に左右されない高い道義性という点で、新聞ジャーナリズムはインターネットよりも優れていると主張しました。民主主義社会においてジャーナリズムは不可欠であるとし、新聞事業を維持するために再販制度や特殊指定制度といった既存の枠組みの重要性を擁護しました。さらに、日本でも欧米諸国のように、社会文化政策として新聞ジャーナリズムへの公的支援を行うべきだと強く提言しました。具体的な支援策として、税制上の優遇措置、ジャーナリズムの重要性を学ぶカリキュラムの強化、さらには15歳の子どもたちへの新聞の1年間無料配布などを提案し、これらを実現するための費用は年間わずか500億円程度で足りると試算しました。
共同通信社での役職のほかにも、多方面で言論・報道の公正性に関わる公的な役割を担いました。神奈川県公文書公開審査会会長、1994年からは日本民間放送連盟放送番組調査会委員長、2000年からは放送倫理・番組向上機構（BPO）の「放送と青少年に関する委員会」委員長、2001年からは朝日新聞報道と人権委員会委員などを務め、メディアの自主規制や倫理向上、情報公開の推進に寄与しました。
2007年には、ジャーナリスト仲間らによって設立された「原さん、永井さんをNHK会長候補に推薦する会」から、時のNHK会長の後任候補として推薦を受けました。この推薦文では、彼が「日本における言論・報道界のご意見番的存在で、卓越した見識と知性を兼ね備えたジャーナリスト・文化人」であると称えられています。
晩年もジャーナリズムに関する発言を続けましたが、2017年11月30日午後6時5分、胸部大動脈瘤破裂のため、神奈川県藤沢市内の病院でその生涯を終えました。享年92歳でした。また、憲法擁護の市民運動である「九条の会」の活動にも賛同し、その傘下にある「マスコミ九条の会」の呼びかけ人としても名を連ねていました。
原氏のジャーナリズム論は多岐にわたり、多くの著作として結実しています。主な単著には以下のものがあります。
『デスク日記』（小和田次郎名義、みすず書房）シリーズ
『ジャーナリストへの条件』（小和田次郎名義、蝸牛社）
『新聞記者―私の仕事』（東洋経済新報社）
『新聞記者の処世術』（晩聲社）
『新しいジャーナリストたちへ』（晩聲社）
『歪んだ鏡―日本の新聞とテレビ』（アドバンテージサーバー）
『ジャーナリズムは変わる』（晩聲社）
『ジャーナリズムの思想』（岩波新書）
『ジャーナリズムの世界に生きて』（かわさき市民アカデミー出版部）
『ジャーナリズムの可能性』（岩波新書）
『ジャーナリズムに生きて』（岩波現代文庫）
『原寿雄自撰 デスク日記 1963～68』（小和田次郎名義、弓立社）
* 『安倍政権とジャーナリズムの覚悟』（岩波ブックレット）
これらの著作や活動を通じて、原寿雄は日本のジャーナリズムのあり方について問いを投げかけ続けました。
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