原撫松

原撫松（はら ぶしょう）

原撫松は、慶応2年（1866年）に生まれ、大正元年（1912年）に47歳で没した明治期の洋画家です。その名が広く知られているとは言えませんが、明治期において本格的な油彩技法を修得した最も優れた画家の一人と評価されています。特に肖像画を得意とし、その作品は卓越した技術と独特の風格を兼ね備えています。

生涯

幼少期から絵画との出会い

原撫松は、岡山藩士の長男として岡山市出石村に生まれました。幼少期には熊之介、後に熊三郎、そして熊太郎と名を改めました。父は岡山藩の役人で、後に銀行設立にも関わりました。撫松は、小学校卒業後、洋画家の多賀清光や平野雄也に水彩画を学び、絵画の道へと進みます。

京都での修学時代

1881年（明治14年）には京都府画学校に入学し、小山三造や田村宗立に洋画を師事しました。しかし、翌年には父の事業の失敗により家計が破綻。しかし、恩師らの尽力で学費免除となり、アルバイトで生計を立てながら画業を続けました。1884年（明治17年）には同校を首席で卒業し、京都府宮津中学校や滋賀県師範学校で図画教員として教鞭をとりました。

画家としての独立

1887年（明治20年）頃、画業に専念するため岡山に戻り、独学で肖像画を描きながら技術を磨きました。この時期には、日蓮宗不受不施派の僧・杜岳日允との出会いがあり、その精神的な影響を強く受けました。日允の教えにより、撫松は名利私欲を捨て、一生を美の追求に捧げることを誓ったとされています。

上京と肖像画制作

1896年（明治29年）、帝国鉱山局長の伊藤弥次郎との出会いをきっかけに上京し、伊藤から「撫松」の号を贈られました。伊藤らの紹介で、伊藤博文、西園寺公望、北里柴三郎など、各界の名士の肖像画を制作しました。特に森村市左衛門とは、画家と顧客の関係を超えた親密な交わりを結びました。

イギリス留学

1904年（明治37年）から3年間、イギリスへ留学し、本格的な油彩技法を修得しました。ロンドンのナショナル・ギャラリーやケンジントン・ミュージアムで模写に励み、専門家から指導を受けました。その成果は、イギリスの美術批評家マリオン・スピールマンにも絶賛され、短期間で伝統的な油彩技法を習得したことが高く評価されました。

帰国後の苦悩と最期

1907年（明治40年）に帰国。翌年には赤坂離宮壁画制作の依頼を受けましたが、帰国後は病気がちになり、自身の制作に不可欠だったフレーク・ホワイト（鉛白）の変色への懸念からスランプに陥り、壁画を完成させることはできませんでした。大正元年（1912年）10月27日、胃がんにより47歳でその生涯を閉じました。

作品の特徴

原撫松の作品は、伝統的な西洋画技法を習得したことによる堅牢なマティエールと、時に10層にも及ぶ絵の具層から生まれる繊細なニュアンスが特徴です。メリハリの効いた筆致には、典雅な風格が漂っています。しかし、画壇から離れて活動したことや、肖像画が主な作品であったため、美術市場に出回ることは少なく、作品を収蔵する美術館も限られています。そのため、その高い画力に反して作品を鑑賞する機会は少ない状況です。

代表作

（代表作に関する情報は、本記事では割愛します）

参考文献

* 丹尾安典監修 岡山県立美術館 郡山市立美術館 神奈川県立近代美術館編集『知られざる伝統 原撫松展 伝えられた英国絵画のこころ 図録』 原撫松展実行委員会、1997年

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