鉛白

鉛白：油彩絵具の主役を担った、美しい毒

鉛白は、古くから絵画に用いられてきた白色顔料です。その化学式は2PbCO3・Pb(OH)2で表される塩基性炭酸鉛であり、独特の特性から、長きにわたり画家たちを魅了してきました。

優れた特性と油彩絵具への適合性

鉛白は現在でも油彩絵具の顔料として使用されています。その理由は、いくつかの優れた特性にあります。まず、鉛白の成分である鉛が触媒として作用し、乾性油の酸化重合を促進するため、乾燥性が非常に良い点が挙げられます。また、絵具を作る際に必要な油の量が少なく、油の影響を受けにくいという特徴も持ち合わせています。

さらに、塗膜の上塗りや下地への接着性に優れ、亀裂の発生が少ないことも、鉛白が油彩絵具に好んで用いられてきた理由です。この優れた接着性は、鉛白の結晶が板状で、塗膜の中で層状に配列することに起因すると考えられています。多くの顔料と混色しても問題ありませんが、硫黄化合物とは反応して黒変する可能性があるため注意が必要です。そのため、水性絵具には適しません。

製法と品質

クレムニッツ法で製造された鉛白は「クレムニッツ白」として有名ですが、絵具としてチューブに詰める際には粗粒になりやすく、白色度も最高ではありませんでした。そこで、1955年頃から日本では、より高品質な鉛白を製造する「電気分解法」が採用されるようになりました。この方法では、純度99.998％という高純度の電気鉛を使用し、電解液に炭酸ガスを吹き込みながら連続的に電気分解を行うことで、均質で白色度が高い鉛白が製造されています。この電気分解法による鉛白は、現在、国産鉛白絵具の基盤を支える顔料となっています。

美しさ、そして毒性

鉛白は、その発色が人間の肌の色に非常に近く、美しく見えるため、古くから絵画において肌色の表現に多用されてきました。ルノワールなど多くの画家が、女性の肌を描く際に鉛白を好んで使用したことは有名です。また、絵画だけでなく、おしろいなど化粧品にも使用されてきました。しかし、鉛白は毒性を持ち、中毒を起こす危険性があるため、その使用には細心の注意が必要でした。にもかかわらず、その美しさから、禁止されてもなお使用され続けた歴史を持っています。

代替顔料の登場

鉛白の毒性のため、現在ではより安全な酸化亜[[鉛]]、亜鉛華、炭酸カルシウム（胡粉）、二酸化チタン（チタン白）、ジンクホワイトなどが代替顔料として使用されています。しかし、鉛白が持つ独特の特性と、その発色による美しさは、多くの画家たちに深い印象を与え続け、絵画の歴史に重要な足跡を残しました。

参考文献

『絵具の科学』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社
『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社
『カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科』 森田恒之監修 美術出版社
『絵画材料事典』 ラザフォード・J・ゲッテンス・ジョージ・L・スタウト著 美術出版社

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