原田実 (音楽家)

原田 実

（はらだ まこと）

1932年7月19日、東京都に生まれた原田実は、日本のカントリーミュージックシーンにおいて、スティールギター奏者、そして編曲家として多大な足跡を残した人物である。「ピーウィー」の愛称でも親しまれた彼は、伝説的なバンド「ワゴン・エース」の創設者であり、その中心メンバーとして長く活躍した。

生い立ちと音楽の芽生え

東京都渋谷区大山町で生まれた原田は、安田信託銀行（後の中央信託銀行）で本店部長を務めた父、原田信雄の次男であった。山形県で郷中取締や町議会議員を務めた祖父、日本銀行員を父に持つ母京の間に生まれた彼は、幼少期から音楽に親しんだ。3歳頃にはピアノに触れ、慶應義塾幼稚舎時代には同級生らとハーモニカバンドを結成するなど、早い段階から音楽への関心を示していた。

学生時代の活動とカントリーへの転向

1945年、慶應義塾普通部に入学すると、兄や後に作曲家となる小林亜星らと共にハワイアンバンドを結成。占領下の日本において、進駐軍クラブでの演奏活動を通じて実践的な音楽経験を積んだ。慶應義塾大学に進学後、1950年には大橋節夫とハニー・アイランダースにベーシストとして参加。この頃、日劇で行われた公演でチャック・ワゴン・ボーイズのスティールギター奏者、黒田美治の演奏を目の当たりにし、その魅力に強く惹きつけられ、カントリーミュージックへの道を志すこととなる。

ワゴン・マスターズ時代

カントリーへの転向を決意した原田は、1952年2月にチャック・ワゴン・ボーイズを脱退した藤沢恵治や小山栄らが新たに立ち上げたバンド、ワゴン・マスターズに加入する。ここでスティールギターを本格的に学び、演奏技術を磨いた。1955年には、歌手の小坂一也を迎え入れた「小坂一也とワゴン・マスターズ」として、日本コロムビアからレコードデビューを果たし、その名を広く知られるようになる。

ワゴン・エースの結成と発展

1958年、原田はワゴン・マスターズを脱退し、新たなバンドを結成する決意をする。ワゴン・マスターズの盟友であった藤本精一、住吉敞らと共に立ち上げたのが「ワゴン・エース」である。バンド名は藤本によって名付けられた。当初は住吉敞がリーダーを務め「住吉敞とワゴン・エース」として活動を開始したが、住吉の脱退に伴い「原田実とワゴン・エース」と改称し、原田が名実ともにバンドの中心となる。

ワゴン・エースは、当初こそ企画盤や他アーティストのレコーディングへの参加が中心であったが、1962年からは自己名義でのアルバムを次々と発表。「駅馬車」「西部劇映画主題曲集」といったウェスタン・ヒット曲集や、「フォーク・ソング・ベスト・ヒット」など、幅広いジャンルの楽曲をカントリーテイストで演奏し、人気を博した。創設期には原田（スティールギター、編曲）、住吉（ヴォーカル）、藤本（フィドル）、瀬谷福太郎（エレクトリックギター）、佐野淳（ベース）、加瀬沢道夫（ドラムス）、関口良信（ヴォーカル、ギター）、林洋介（ヴォーカル、ギター）といったメンバーが在籍し、その後も釜萢ヒロシ、鈴木恒雄、寺本圭一など、多くの優れたミュージシャンが出入りしながら、1970年代まで精力的な活動を続けた。

編曲家・ゲストミュージシャンとしての貢献

原田実は、ワゴン・エースでの活動に加え、優れた編曲家としてもその才能を発揮した。また、バンドの枠を超えて、様々なアーティストのレコーディングにゲストミュージシャンとして参加している。特に、はしだのりひことシューベルツのアルバム「未完成」ではドブロギター、浅川マキのアルバム「MAKI II」ではハーモニカを演奏するなど、カントリー以外のジャンルでもその演奏を聴かせた。ジミー時田、寺本圭一、斉藤任弘ら日本のカントリー界を代表する面々との共演も多く、後進の育成や他アーティストへの協力にも惜しみなかった。

日本カントリーミュージックの礎を築く

原田実は、その卓越したスティールギターの技術と編曲能力、そして「ワゴン・エース」という強力なバンドを率いたリーダーシップによって、日本のカントリーミュージックの発展に欠かせない存在となった。彼の残した数多くの作品は、今日でも日本のウェスタン・カントリー史を語る上で重要な財産となっている。1996年8月25日にその生涯を閉じたが、彼の功績は日本のポピュラー音楽史に深く刻まれている。

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