原田正夫

原田 正夫（はらだ まさお、後年、養子縁組により藤江姓となる）は、日本の陸上競技史に名を刻む傑出した跳躍選手です。1912年（大正元年）9月22日、京都府亀岡市曽我部町西条に生を受けました。京都一中、第三高等学校を経て、京都帝国大学法学部で学びました。大学卒業後、藤江家に養子に入り、姓を藤江と改めました。

競技者としてのキャリアでは、特に三段跳と走幅跳で国内外にその実力を知らしめました。国内の舞台では、日本陸上競技選手権大会の走幅跳で、実に4度にわたり頂点に立っています。

原田がその名を歴史に深く刻んだのは、1936年にナチス・ドイツの首都ベルリンで開催されたオリンピック競技大会でのことでした。男子三段跳に出場した原田は、この大舞台で15メートル66センチという記録を叩き出し、見事に銀メダルを獲得しました。この種目で金メダルに輝いたのは、奇しくも同じ京都帝国大学の先輩にあたる田島直人選手でした。日本の選手がワンツーフィニッシュを飾る快挙であり、特に同じ大学出身の二人が金銀を分け合ったことは、大きな話題となりました。

原田と田島の関係を巡るエピソードは、現在も陸上界で語り継がれています。ベルリンオリンピック開催の約2年前、二人が参加した京都大学陸上競技部の部誌に掲載された「三段跳座談会」でのやり取りは特に知られています。この座談会で、田島選手はベルリンオリンピックの日本代表候補について問われた際、「（代表には）大島さんと原田さんが行くことになるだろう」と述べ、自身の出場については言及していませんでした。しかし、実際のオリンピックでは、田島選手自身が世界記録を樹立して金メダルを獲得し、原田選手がそれに次ぐ銀メダルとなりました。この予想を裏切る結果について、原田は後年、田島と顔を合わせた際に「まさかベルリンの三段であんたに負けるなんて夢にも思わなかったなあ」と、冗談めかしつつも率直な心境を漏らしたという証言が残っています。この言葉は、二人の間にあった長年のライバル関係の深さや、スポーツの持つドラマ性を象徴するものと言えるでしょう。

大学を卒業した原田は、日立製作所に就職しました。競技者としての現役時代や引退後の詳しい生活については多くの資料が残されていませんが、非常に近眼であり、普段からメガネを手放せなかった人物として知られています。

晩年は穏やかに過ごされたと見られますが、2000年（平成12年）1月22日、呼吸不全のため87年の生涯を閉じました。日本の陸上競技、特に跳躍種目の発展に貢献し、ベルリンオリンピックでの銀メダル獲得という輝かしい実績を残した原田正夫の功績は、今なお高く評価されています。

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