厲王

厲王（れいおう）

厲王は、古代中国の西周王朝における第10代の王として知られています。彼の父は夷王であり、夷王の死後、周王として即位しました。しかし、彼の治世は、佞臣の栄夷公を重用し、賢臣である周公や召公らの忠告を無視した暴政によって特徴づけられます。これにより、民衆は政治に対する不満を募らせ、自由に意見を述べることが憚られるようになりました。そのため、人々は視線や身振りで意思疎通を図るという状態に陥り、社会は閉塞感を深めていきました。このような状況下で、周王朝の国力は著しく衰退し、朝廷の腐敗は深刻化していきました。

しかし、金文の研究によれば、厲王はただの暴君であったわけではなく、自ら軍を率いて南方の服子を討伐したり、晋の献侯と協力して夙夷を征伐するなど、外征を積極的に行った側面も確認されています。これらの軍事行動は、周王朝の権威を維持するためのものであったと考えられますが、同時に民衆にさらなる負担を強いる結果となったことは否めません。

厲王の治世に対する民衆の不満は、紀元前842年にピークに達しました。ついに民衆が王宮に乱入し、厲王を殺害しようとする国人暴動が発生したのです。この危機的状況に対し、厲王は都の鎬京を捨てて黄河を越え、彘（現在の山西省霍州市）へと逃亡せざるを得ませんでした。この事件により、周王朝は一時的に統治者を失うこととなりました。

この空白期間における政治体制については、『史記』と『竹書紀年』で異なる記述がなされています。『史記』によれば、周公と召公が協力して政治を代行する「共和」と呼ばれる体制が成立したとされています。一方、『竹書紀年』では、共伯和という人物が王に代わって政治を執り行ったと記されています。いずれにせよ、厲王の逃亡後、周王朝は新たな政治体制を模索せざるを得なくなったことは確かです。

その後、紀元前828年（共和14年）に厲王は亡くなり、彼の死後、周公と召公の尽力によって、厲王の息子である姫静が即位して宣王となりました。宣王の時代には、厲王の末子である姫友が鄭に封じられ、鄭の桓公としてその後の歴史に名を残すこととなります。

このように、厲王の治世は、その暴政や国人暴動、そして共和制の成立など、周王朝の歴史において大きな転換点となりました。彼の治世は、周王朝の衰退を招いた要因の一つとして捉えられていますが、同時に、その後の宣王の時代へと繋がる重要な時期であったとも言えるでしょう。

参考文献：
* 佐藤信弥『周－理想化された古代王朝』（中公新書，2016年）

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