参松工業

参松工業株式会社：甘味の歴史と挑戦

参松工業株式会社は、かつて水飴や異性化糖の製造を手がけていた企業です。1916年に参松合資会社として創業し、1965年には世界で初めて異性化糖の製造に成功するなど、日本の食品産業に大きな足跡を残しました。しかし、80年以上の歴史を持つ同社も、時代の波には逆らえず、2004年に民事再生法を申請し、その歴史に幕を閉じました。

創業者の志と挑戦

創業者である横山長次郎は、慶應義塾大学を卒業後、銀行勤務を経て父が所長を務める釜石鉱山田中製鉄所に入所します。欧米の製鉄技術を視察した際に大きな差を感じ、製鉄所を退職。その後、恩師との出会いを通じて酸糖化法に魅せられ、これを生涯の仕事とすることを決意します。

1916年、横山は東京に工場を建設し、参松合資会社を設立。社名は横山家の家紋に由来します。当初は試行錯誤の連続でしたが、やがて製品を販売するに至り、日本初のブドウ糖製造にも成功。第一次世界大戦下での原料調達難には、サツマイモの栽培を奨励するなど、独自の対策を講じました。その後は、理化学研究所が開発した理研酒用ブドウ糖が主力製品となります。

関東大震災からの再建と事業拡大

1923年に関東大震災が発生し、工場は全焼。しかし、参松は千葉県からの誘致を受け、新たな工場を建設し再建を果たします。その後、福岡の製飴会社を傘下に収め、西日本への販路を拡大。さらに、原料調達を目的とした澱粉工業助成株式会社を設立し、全国各地に澱粉工場を設けました。

1939年には社名を参松工業株式会社に改称。第二次世界大戦中は軍需の仕事を受注し、注射用局方ブドウ糖を製造しました。戦後の混乱期には、空襲で工場が大きな被害を受けたものの、いち早く水飴の生産を再開。しかし、その直後に創業者の横山長次郎が急逝するという不幸に見舞われます。

技術革新と市場の変化

戦後、参松は増醸用粉末水飴の生産を開始し、新たな市場を開拓します。その後、競合他社が固体培養での酵素糖化法によるブドウ糖の工業生産に成功する中、参松は理化学研究所と共同で液内培養を開発。これにより、管理が容易で品質の高いブドウ糖の生産を実現しました。

1960年代には、ブドウ糖を果糖に異性化する研究が進められ、参松も異性化に成功。「サンフラクト」の商品名で販売を開始しますが、当初は食品メーカーの認知度が低く苦戦しました。しかし、山崎製パンやヤクルト本社がいち早く採用したことで、徐々に市場に浸透していきます。

異性化糖の普及と事業の終焉

1980年代には、クロマト分離法による高果糖の製造に成功。清涼飲料メーカーからの引き合いが増え、かつて門前払いを受けたコカコーラ社からも注文を受けるようになります。しかし、1990年代以降、市場の変化に対応しきれず、2004年に民事再生法を申請し、80年以上の歴史に幕を閉じました。

参松工業は、日本の食品産業の発展に大きく貢献した企業です。その歴史は、技術革新への挑戦と、時代の変化への適応の難しさを示しています。

事業所

かつては千葉県と福岡県に工場がありましたが、千葉工場跡地はダイエー千葉店を経てマンションとなり、福岡工場跡地は商業施設となっています。

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