反逆児 (1961年の映画)

反逆児：悲劇の若き武将の生涯

1961年公開の日本映画『反逆児』は、徳川家康の嫡男、松平信康の波乱に満ちた生涯を描いた時代劇です。大佛次郎による新作歌舞伎「築山殿始末」を原作とし、伊藤大輔監督が脚本・監督を務め、富士フイルム総天然色、シネマスコープという当時最先端の技術を駆使して制作されました。芸術祭参加作品にも選ばれ、高い評価を得ています。

物語の舞台は、戦国時代末期の天正7年（1579年）。武田との戦で勝利を収め、凱旋した信康は、父・家康、母・築山御前、そして織田信長の娘である妻・徳姫との複雑な関係の中で苦悩します。築山御前は今川義元の姪という出自を持ち、信康の周囲を取り巻く勢力争いの渦中にありました。信長は、秀でた才能を持つ信康を潜在的な脅威とみなしています。信康は、母と妻のはざまで揺れ動き、愛する者たちとの間で板挟みとなり葛藤を深めていきます。

映画では、信康を取り巻く主要人物たちが鮮やかに描かれています。中村錦之助（萬屋錦之介）演じる信康は、若くして重い運命を背負いながらも、揺るぎない信念と繊細な心を持ち合わせた複雑な人物像として表現されています。信康を深く愛する徳姫には岩崎加根子が、信康の母・築山御前を杉村春子が演じています。築山御前は、信長、徳姫、家康を呪殺しようと企てるなど、物語の重要な鍵を握る人物です。さらに、信康の忠実な家臣たちや、織田信長、羽柴秀吉といった歴史上の人物も登場し、物語に深みを与えています。

伊藤大輔監督の演出は、時代劇の枠を超えた高い芸術性を示しています。錦之助の熱演は、監督をして涙を誘うほどだったと伝えられています。評論家からも高く評価され、淀川長治は「大輔氏の演出」を絶賛し、キネマ旬報ベストテンで1位に選出しました。滋野辰彦も、伊藤監督の晩年の作品の中で本作を最高の作品と評しています。

『反逆児』は、単なる歴史劇にとどまらず、人間の業、運命、そして家族の絆といった普遍的なテーマを深く掘り下げた作品です。信康の悲劇的な最期は、観る者の心に強い衝撃を与えます。また、映画の技術的な面でも、当時の最先端技術を駆使した映像美は、時代劇映画史における重要な作品となっています。

数々の賞を受賞し、DVD化、舞台化もされるなど、長く愛され続けている『反逆児』。時代劇ファンのみならず、多くの観客を魅了する名作と言えるでしょう。東映時代劇YouTubeチャンネルでは期間限定で公開されたことも話題となりました。この機会に、ぜひこの歴史的名作をご鑑賞ください。

主なキャスト

三郎信康：中村錦之助（萬屋錦之介）
徳姫：岩崎加根子
築山御前：杉村春子
徳川家康：佐野周二
織田信長：月形龍之介
羽柴秀吉：原健策
その他、豪華キャスト多数

受賞歴

第16回毎日映画コンクール美術賞（桂長四郎）
第12回ブルーリボン賞監督賞

その他

1995年VHSビデオ、2008年DVD発売
* 1964年、伊藤大輔監督演出により舞台化。中村錦之助主演。2009年には中村獅童主演で再演。

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