受動態

受動態：行為を受ける主語が中心の文の構造

受動態とは、文法における態の一種で、能動態と対照的な文構造です。能動態では行為者が主語となりますが、受動態では行為の対象が主語となり、行為者は副詞句やその他の要素として表現されるか、省略されます。日本語では「れる」「られる」などの助動詞を用いて表現され、英語では「be動詞＋過去分詞」の形で表現されるなど、言語によってその形態は多様です。

受動態の主な特徴

行為の対象が主語になる: 受動態の最も重要な特徴は、能動態の目的語が受動態の主語となることです。例えば、「先生が花子を叱った」という能動態の文は、受動態では「花子は先生に叱られた」となります。
行為者の省略可能性: 受動態では、行為者（能動態の主語）を省略することが多く、行為自体に焦点を当てた表現になります。省略しない場合は、日本語では「に」「によって」、英語では「by」などの前置詞を用いて表現します。
特別な動詞の形態: 受動態は、能動態とは異なる特別な動詞の形態をとるため、「有標」な態と言われます。日本語の「れる」「られる」、英語の「be動詞＋過去分詞」などがその例です。

受動態の種類

受動態には、いくつかの種類があります。代表的なものを以下に示します。

直接受動態: 能動態の直接目的語が主語となる最も一般的な受動態です。日本語の「先生に叱られた」、「本を読まれた」などが該当します。英語の"The book was read by John"もこのタイプです。
間接受動態: 能動態の目的語とは異なる名詞句が主語となる受動態です。これは日本語に特徴的に見られるもので、「雨に降られた」「子供に泣かれた」などが該当します。英語などでは通常見られない特殊な形態です。
与格受動態: 能動態の与格目的語（間接目的語）が主語となる受動態です。日本語や英語では可能ですが、フランス語やドイツ語などでは許されない言語もあります。「プレゼントを渡された」などが該当します。
非人称受動態: 主語を省略したり、形式主語（虚辞）を用いたりする受動態です。ドイツ語やヒンディー語などにみられ、行為者や行為の対象を明確にしない表現に用いられます。例えばドイツ語では"Es wird getanzt"（踊られている）のように、虚辞のesを主語に用いて表現されます。

各言語における受動態の分布

世界中の言語における受動態の分布は均一ではありません。Anna Siewierskaの調査によると、373言語のうち約44%（162言語）に典型的な受動態が存在することが分かっています。地理的には、ユーラシア大陸、アフリカ、北アメリカに多く、南アジアや太平洋地域、オーストラリア、ニューギニアには少ない傾向が見られます。また、コーカサス諸語やチベット語派など、受動態を持たない言語も多いです。

日本語の受動態

日本語の受動態は、「れる」「られる」という助動詞を用いて表現されます。直接受動態と間接受動態の2種類があり、間接受動態は日本語に特徴的なものです。

直接受動態: 能動態の直接目的語または間接目的語が主語となる受動態です。「先生に叱られた」「本を読まれた」などが該当します。動作主を表すには「に」を用いるのが一般的ですが、「によって」「から」を用いる場合もあります。
間接受動態: 直接対応する能動態を持たない、日本語に特徴的な受動態です。「雨に降られた」「子供に泣かれた」など、主語が間接的に影響を受ける場合に使われます。「迷惑の受身」や「持主受身」など、さらに細かい分類も存在します。

その他の言語の受動態

英語をはじめとする多くのヨーロッパ言語では、「be動詞＋過去分詞」の形で受動態が表現されます。フランス語でも同様ですが、前置詞補語を主語にする受動態は一般的ではありません。ドイツ語やスペイン語などでは、動的受動態と静的受動態の区別があり、助動詞によって表現が異なります。中国語では、「被」などの助詞を用いて受動態を表現します。また、フィンランド語などでは、自然現象に関する受動態表現として、主語人称を特殊なものにする方法が用いられます。

受動態の機能

受動態は、文の構成要素の強調や、特定の情報を焦点化するために用いられます。

動作主の軽視または省略: 行為者よりも行為の対象に焦点を当てる場合に用いられます。
被動者の強調: 行為の対象を文の主題として強調する場合に用いられます。
意志の非関与の強調: 被動者が行為者の意志とは無関係に行為を受けたことを強調する場合に用いられます。

日本手話における受動態

日本手話においても「能動態」「受動態」のような概念は存在しますが、方向性のある動詞（有方向詞）を用いたり、「ロールシフト」「指さし」「話題化のうなずき」などの表現を用いることで、同様の機能を実現しています。ただし、手話学における統一見解は必ずしも得られていません。

まとめ

受動態は、世界中の多くの言語に見られる普遍的な文法現象ですが、その表現方法や種類は言語によって大きく異なります。本記事では、受動態の定義、種類、そして世界各言語における受動態の分布について解説しました。それぞれの言語の文法構造を理解する上で、受動態の役割を理解することは非常に重要です。

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