受胎告知 (アルテミジア・ジェンティレスキ)

アルテミジア・ジェンティレスキの「受胎告知」

アルテミジア・ジェンティレスキによって1630年に制作された油彩画「受胎告知」は、新約聖書「ルカによる福音書」に記された、大天使ガブリエルが聖母マリアにイエス・キリストの母となることを告げる瞬間を描いた作品です。現在、ナポリのカポディモンテ美術館に所蔵されています。

作品の詳細

画面は、暗い部屋の中で二人の人物が明るく照らし出される構図で、右側に描かれているのは、胸に手を当てて軽くお辞儀をする聖母マリアです。一方、左側には豪華なサフラン色の衣服を身にまとい、ユリの花を手に跪く大天使ガブリエルが描かれています。ガブリエルの左手は天を指し、その上方からは光線が差し込み、翼を持つ智天使が飛翔しています。床には小さな紙片があり、そこには画家の署名と制作年が記されています。

この絵画は、「ルカによる福音書」の記述に基づき、ガブリエルがマリアに「おめでとう、恵まれた方。あなたは神の恵みによって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名付けなさい」と告げる場面を捉えています。マリアは当時、大工のヨセフと結婚していましたが、まだ性的関係を持っていなかったため、このお告げに戸惑います。しかし、聖霊の力によって子が宿ったことを知ると、「お言葉どおり、この身になりますように」と受け入れたと記されています。

受胎告知の場面を描いた絵画には、通常、純潔を象徴するユリの花、聖霊を象徴するハト、聖母マリアの書見台などが描かれますが、本作品ではユリの花がガブリエルの手によって表現されています。

作品の状態

この絵画は、経年劣化による大きな損傷を被っており、特に中間色の多くが失われ、暗色の色調が濃くなっているため、色彩のコントラストが過剰に強調されています。このため、作品本来の色調とニュアンスを正確に知ることは困難となっています。

来歴

この作品は、アルテミジア・ジェンティレスキがナポリで活動していた初期に制作されたもので、祭壇画として制作されたことがわかっていますが、具体的な教会の名前は特定されていません。その後、カヴァリエーレ・フランチェスコ・サヴェリオ・ディ・ロヴェッテのコレクションに収蔵され、1815年に彼によってカポディモンテ美術館に売却されました。

アルテミジア・ジェンティレスキについて

アルテミジア・ジェンティレスキは、17世紀イタリアのバロック期に活躍した女性画家であり、その力強い画風と劇的な表現で知られています。彼女の作品は、当時の女性画家としては異例なほど大胆で、特に聖書や歴史を題材とした作品に、強い感情と人間性が込められています。この「受胎告知」にも、彼女の独特な表現と、聖母マリアの受容の感情が描かれています。

まとめ

アルテミジア・ジェンティレスキの「受胎告知」は、聖書の重要な場面を捉えた作品であると同時に、彼女の画家としての才能と、バロック美術の特徴を色濃く示す作品です。作品の状態は良好ではありませんが、その歴史的・美術的価値は高く、カポディモンテ美術館で多くの人々を魅了し続けています。

参考資料

* 大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13223-2

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