受胎告知 (ティントレット)

ティントレット作『受胎告知』：革新的な解釈と力強い表現

『受胎告知』（伊: Annunciazione）は、ルネサンス期のヴェネツィア派の巨匠、ティントレットが1583年から1587年にかけて制作した油彩画です。この作品は、彼の晩年を代表する傑作の一つであり、ヴェネツィアのサン・ロッコ大同信会館のために描かれた8点の連作《聖母の生涯》の一部を構成しています。制作には、息子のドメニコ・ティントレットも参加しています。現在もサン・ロッコ大同信会館に所蔵されており、その迫力と革新的な表現は見る者を圧倒します。

制作の背景

1564年、サン・ロッコ同信会は新設された本部会館の天井画を依頼する画家を選ぶコンテストを開催しました。ティントレットは、同信会の要望に応じて選考用の習作を提出することに同意した一方、審査前日に完成作である『聖ロクスの栄光』を寄贈という形で持ち込みました。同信会側は驚きましたが、この寄贈を受け入れざるを得ませんでした。この出来事を機に、ティントレットは1564年から1587年までの長期間にわたり、同信会館とその付属聖堂の装飾に携わることになりました。彼は68点にも及ぶ作品を制作し、その主題はキリストと聖母マリアの生涯、『旧約聖書』および『新約聖書』の様々な場面、聖ロクスの物語、聖人画、寓意画など多岐にわたります。

『受胎告知』は、1582年から1584年の間に制作された《聖母の生涯》連作の一部で、ティントレットが同信会館のために制作した最後の作品の一つです。

作品の特徴

この絵画では、ティントレットは、天使ガブリエルが家屋の戸口から飛び込み、神の子の受肉を告げる場面を描いています。ガブリエルの右手の指は、鳩の姿で表された聖霊を指し、左手には百合の花を持っています。通常、荘厳な雰囲気で描かれることの多い受胎告知の場面を、ティントレットは雑然とした背景の中で、力強く迫力ある作品として表現しています。聖母マリアは、突然現れた天使の出現に驚きを隠せずにいます。聖霊はマリアの頭上にあり、戸口のまぐさの上の開口部から侵入したかのように、後方には多数の小さな天使たちが渦を巻くように連なって飛んでいます。

聖母マリアは、カルロ・クリヴェッリの『聖エミディウスのいる受胎告知』とは対照的に、質素な村娘として描かれています。机の上の糸車と糸巻き棒は、伝統的に聖母が勤勉であることを示しています。画面は中央付近の戸口の柱で屋内と屋外に分割されていますが、その柱は老朽化し、レンガが崩れています。屋外には、大工である聖ヨセフの仕事道具が雑然と積まれ、隣接する家屋には木材が立てかけられています。画面奥では、聖ヨセフと思われる男性が仕事をしている姿が見えますが、ほとんど目立ちません。

この絵画は、受肉の謎を象徴的に紹介するために、一階の部屋の手前に大きく配置されています。受胎告知の場面は、ティントレットの特徴である空間を分割して内外を表現する方法を用いており、聖家族の貧困を強調しています。室内の様子は、聖家族が住む建物が、かつてヴェネツィアの宮殿の一部であり、おそらく災害のために放棄されたものであることを示唆しています。室内には、整然とした天蓋付きベッドや格天井がそのまま残されています。また、崩れかけたレンガの高い土台に置かれた老朽化した柱は、サラ・テレナを3つの部分に分割する列柱を想起させます。

サン・ロッコ大同信会館の絵画群全体は、批評家によってカトリックの対抗宗教改革を代表する作品と見なされていますが、1階の聖母連作は、他の部屋の絵画に比べて、対抗宗教改革の影響を強く受けていないとされています。マニエリスムの精神で描かれたこの作品は、聖書からの一定の独立性と、外典のテキストへの広範な言及を示しており、ティントレット特有のオリジナリティと斬新さが際立っています。

連作のすべての絵画の構想は、疑いなくティントレットによるものですが、作品を制作するにあたり、彼は多くの助手を活用しました。『受胎告知』では、散らばった大工道具などの細部の描写や、聖母マリアの周りを渦巻く小さな天使たちの行列、そして大天使ガブリエルのローブの襞の幾何学的なハイライトなどに、息子のドメニコの介入が見られます。

別バージョン

『受胎告知』には、いくつかの異なるバージョンが存在します。サン・ロッコ教会、ルーマニア国立美術館、そして個人コレクションに所蔵されているバージョンが知られています。最後のバージョンは、18世紀にドージェのピエトロ・グリマーニが所有していたことが判明しています。

連作《聖母の生涯》の他の作品

この『受胎告知』を含む《聖母の生涯》連作には、以下のような作品が含まれます。

キリストの神殿奉献
エジプトへの逃避
聖母の訪問

これらの作品は、いずれもティントレットの独特な解釈と卓越した技術を示すものであり、彼の芸術的才能を物語っています。

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
『週刊美術館28 ティツィアーノ・ティントレット』小学館（2000年）
『週刊グレート・アーティスト56 ティントレット その生涯と作品と創造の源』、同朋舎出版（1995年）
Rodolfo Pallucchini e Paola Rossi, Tintoretto - L'opera completa, vol. 1, nuova edizione, Milano, Electa, 1990
Giandomenico Romanelli, Andrea Gallo e Antonio Manno, Tintoretto - La Scuola Grande di San Rocco, a cura di Giandomenico Romanelli, Milano, Electa, 1994.
Valentina Sapienza, Miti, metafore e profezie – Le Storie di Maria di Jacopo Tintoretto nella sala terrena della Scuola Grande di San Rocco, in Venezia Cinquecento – Studi di storia dell'arte e della cultura, Anno XVII, n. 33, Roma, Bulzoni, 2007.
Ester Brunet, La Bibbia secondo Tintoretto – Guida biblica e teologica dei dipinti di Jacopo Tintoretto nella Scuola Grande di San Rocco, Venezia, Marcianum Press, 2012.

外部リンク

* サン・ロッコ大同信会館公式サイト, ティントレット『受胎告知』

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