聖エミディウスのいる受胎告知

『聖エミディウスのいる受胎告知』は、イタリアのルネサンス期の画家カルロ・クリヴェッリが手掛けた祭壇画です。この作品は、受胎告知という宗教的な主題を、当時の社会情勢と芸術的技巧を融合させて描かれています。

制作の背景には、1482年にローマ教皇シクストゥス4世によってアスコリ・ピチェーノの町に与えられた自治を祝うという目的がありました。この祭壇画は、同地のSSアンヌンツィアータ（受胎告知）教会のために描かれ、後に様々な経緯を経て、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

クリヴェッリの絵画は、マンテーニャの影響を受け、アスコリ・ピチェーノの町を理想化されたルネサンス都市として描いています。大理石とレンガで構成された建築物や豪華な聖母の家は、緻密な筆致で表現されています。鉢植えの植物やオリエント風のカーペットといった細部の描写が、聖母マリアの家のロッジアを彩り、作品に華やかさを加えています。

受胎告知の場面は、通常とは異なり、大天使ガブリエルが聖母マリアの家の中ではなく、街頭に描かれている点が特徴的です。この配置は、受胎告知の出来事が単なる個人的なものではなく、公共の出来事であることを示唆しています。天からの光線は、聖霊によってマリアがイエスを身ごもる様子を象徴的に表しています。また、背景には、聖母の処女性を表す閉じた通路と、清らかな水を湛えたフラスコが描かれています。

さらに、この作品には、アスコリ・ピチェーノの守護聖人である聖エミディウスが、町の模型を携えて登場します。彼の存在は、この絵画が単なる宗教的な場面を描写するだけでなく、町の守護と自治を祝うという、より広い意味を持っていることを示しています。画面の手前には、リンゴとキュウリ、孔雀が描かれています。リンゴは禁断の果実と人間の堕落を、キュウリは復活と贖いの約束を、孔雀は不朽を象徴しています。これらの象徴的な要素が、作品に深みと多層的な解釈の可能性を与えています。

絵画の下部には、教皇シクストゥス4世と地元司教の紋章、そして「libertasecclesiastica（教会の自由）」というラテン語の文字が記されています。これは、アスコリ・ピチェーノがカトリック教会の監督下で自治権を持つことを意味し、作品が単なる宗教画ではなく、政治的、社会的な意味合いも持つことを示しています。

この絵画は、クリヴェッリの卓越した技巧と、宗教的、政治的、社会的な意味合いが融合した傑作と言えるでしょう。緻密な描写、象徴的な要素、そして歴史的な背景が組み合わさり、観る者に深い感動を与えます。

もう一度検索