糸車について
糸車(いとぐるま、英: spinning wheel)は、車輪(ホイール)を持つ、
糸を紡ぐための装置です。特に人力で動かすものを指します。紡ぎ車、
糸紡ぎ車、手紡ぎ機、紡毛機など、様々な呼び方があります。
糸車の概要
糸車は、羊毛、
綿、麻、亜麻、
絹などの
天然[[繊維]]や、
ナイロン、
ポリエステルなどの
化学[[繊維]]を
糸にするために用いられます。
糸車は、小さな
紡錘(つむ、スピンドル)と大きなはずみ車(
フライホイール)をベルトで連結した構造をしています。はずみ車を回すことで、ベルトを介して
紡錘が回転し、
繊維を撚り合わせて
糸にします。
ヨーロッパ式の
糸車では、
紡錘の代わりに、ボビンを内側に挿入したフライヤーと呼ばれる回転する枠が使われています。このフライヤーが、はずみ車と連動して回転し、
糸をボビンに巻き取ります。
糸車の使い方
糸を紡ぐ前には、
繊維を整える必要があります。羊毛の場合は、小さくちぎって梳き(カーディング)
繊維の方向を揃えます。
綿も同様に
繊維を揃え、手で扱いやすい大きさにちぎります。これらの
繊維の塊(フリース)の先端を撚り、導き
糸に結び付けます。
ヨーロッパ式の
糸車では、導き
糸の先端をフライヤーのフックに引っ掛け、ボビンに結びます。はずみ車を手で回すか、ペダルを踏むと、フライヤーが高速回転し、導き
糸が
繊維を引き出し、撚り合わされて
糸になり、ボビンに巻き取られます。もう片方の手で、
繊維の量や撚り具合を調整し、均一な太さや張りの
糸を作ります。
ボビンがいっぱいになったら、
糸を引き出し、
糸枠などに巻き取ります。羊毛の場合は、蒸してから、かせ(
糸の束)にして乾燥させ、染めれば色付きの
糸が完成します。
糸車が登場する以前は、
紡錘(ドロップ・スピンドル)が使われていました。
糸車の最も古い記録は、
1237年にバグダッドで描かれたイラストです。
糸車は、
紡錘を横向きに置き、はずみ車で回転させることで、効率的に
糸を紡ぐことができるようにしました。13世紀にペルシアからインドへ伝わり、インドで発明された
糸車は、軽量でより多くの
糸を紡ぐことができるようになり、
紡績史上の大きな進歩となりました。
はずみ車を回転させる方法は、手動からペダル(トレッドル)を使った方法へと進化しました。これにより、片手で
繊維を持ち、もう片手で調整ができるようになり、作業効率が向上しました。
フライヤーとボビンの導入も、
紡績を大きく進歩させました。
糸をフライヤーのフックにかけ、ボビンに巻き取ることで、
糸車を止めることなく
糸を巻き取ることが可能になりました。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、
15世紀末に
糸車とフライヤーをギアで回転させる機械のスケッチを残しましたが、実現には至りませんでした。
1533年、
ドイツでヨーゲン・ヨハンソンによって、現在見る手紡ぎ機の原型が開発されました。
18世紀の
産業革命以降は、
蒸気機関やモーターを利用した
紡績機へと発展しました。
糸車の種類
糸車には様々な種類が存在します。
ウォーキング・ホイール(グレート・ホイール): 羊毛から長い糸を紡ぐための大型の糸車です。
フラックス・ホイール: 亜麻からリネンの
糸を紡ぐための
糸車で、ダブルドライブ式が特徴です。
サクソニー・ホイール、アップライト・ホイール: ペダルではずみ車を回す多目的糸車で、羊毛から梳毛糸を紡ぎます。
チャルカ: インドの
糸紡ぎ車で、手回し式の小型の
糸車です。木
綿などの短
繊維を紡ぎます。
日本の糸車: 手回し式で、竹製の大きな車輪を回転させて糸を紡ぎます。
羊毛用グレート・ホイール
グレート・ホイールは、非常に大きな糸車で、はずみ車を手で回します。紡錘自体が回転し、糸に撚りをかけます。糸の張り具合は、紡ぎ手が糸車に近づいたり離れたりすることで調整します。
チャルカは、マハトマ・ガンディーがインド独立運動の象徴として用いた糸車です。手回し式で、グレート・ホイールと同様の仕組みで糸を紡ぎます。
ダブルドライブ式
ダブルドライブ式は、ドライブバンドが二重になっている糸車で、フラックス・ホイールによく見られます。フライヤーとボビンの両方を回転させ、ボビンの方が早く回ることで糸が巻き取られます。
シングルドライブ式
シングルドライブ式は、ドライブバンドが一重になっている糸車で、ボビンの回転をブレーキバンドで遅くすることで糸を巻き取ります。ボビンの交換がダブルドライブ式に比べて簡単です。
機械式の紡績機を糸車の一種と考えるかどうか議論がありますが、伝統的な糸車の愛好家は、手紡ぎの糸に魅力を感じているようです。
物語の中の糸車
糸車は、かつて女性の重要な仕事であったため、多くの童話に登場します。グリム童話の『ルンペルシュティルツヒェン』や『糸くり三人女』、そして『眠れる森の美女』などが有名です。『眠れる森の美女』では、王女が糸車で指を刺して死ぬという呪いがかけられており、糸車の構造に由来する危険性についても議論されています。
英語の「spinster」という言葉は、優れた紡ぎ手を指す古語であり、後に結婚しない女性を指す言葉としても使われるようになりました。
東アジアにおける糸車
日本でも、糸車が使われていました。
糸車は、単なる道具としてだけでなく、文化や物語にも深く関わっています。
参考文献
『基礎技法講座 織物の用具と使い方』 編:技法叢書編集室 1980年
美術出版社
関連項目
紡錘
ジェニー
紡績機
ミュール紡績機
運命の輪
モイラ (ギリシア神話)
養蚕業
外部リンク
How Spinning Wheels work, and other FAQs
Spinning Wheel - Virtual Museum of Textile Arts