受胎告知 (ベッリーニ)

ジョヴァンニ・ベッリーニ作『受胎告知』

ジョヴァンニ・ベッリーニが1500年頃に制作した油彩画『受胎告知』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する作品です。この作品は、元々ヴェネツィアのサンタ・マリア・デイ・ミラーコリ教会のオルガン外扉の装飾として描かれました。

作品の構成と主題

この絵画の主題は、『新約聖書』の「ルカによる福音書」に記された受胎告知の場面です。ベッリーニは、向かって左側の扉に大天使ガブリエルを、右側の扉に聖母マリアを描いています。扉を閉じると、受胎告知の場面が完成するという構成になっています。また、オルガンの内扉には『聖ペテロ』と、現在は失われた『聖パウロ』が描かれていました。さらに、パラペットの上にはキアロスクーロで描かれた歴史画が数枚あったとされています。

「ルカによる福音書」によれば、天使ガブリエルは、聖母マリアのもとに現れ、彼女が神の子を身ごもることを告げました。この重要な瞬間を、ベッリーニは独自の解釈で描いています。聖母マリアは、天使の出現に驚くことなく、静かに祈りに没頭しています。

作品の詳細

ベッリーニは、聖母マリアが佇む部屋に天使ガブリエルが現れる場面を描いています。天使は鳶色の長髪を持ち、左手に白い百合の花を持っています。夜の室内に差し込む光が、天使と聖母を暖かく照らしています。祈祷台は寄木細工で装飾され、寝台は赤いカーテンで覆われています。窓からは、ヴェネト地方の丘陵風景が見えます。また、室内の壁には、サンタ・マリア・デイ・ミラーコリ教会でも使用されているパヴォナッツォ大理石の羽目板が用いられています。

ベッリーニは、遠近法を用いて描かれた室内の空間に、絵画が設置されている教会の室内空間を再現しています。このような建築要素と空間の模倣は、ベッリーニの他の作品、『聖ヨブ祭壇画』や『フラーリの三連祭壇画』にも見られます。

近年行われた洗浄によって、作品はかつての色彩を取り戻しました。特に、鉛白、朱色のニス、ラピスラズリを混ぜて作られた紫がかった青色で描かれた天使は、ベッリーニの色彩感覚を象徴しています。また、X線撮影による調査で明らかになった下絵も、ベッリーニの卓越した技術を示しています。

作品の帰属と評価

この作品の帰属については、長年議論がありました。1664年には、ボスキーニがオルガンを装飾した絵画を画家ピエル・マリア・ペンナッキに帰属しました。しかし、一般的にはベッリーニの特徴が認められ、最終的にジュゼッペ・フィオッコがベッリーニに帰属しました。

バーナード・ベレンソンをはじめ、ロドルフォ・パッルッキーニやテリージョ・ピニャッティなどの研究者は、この作品をベッリーニの真筆としています。一方、ヴィットーレ・カルパッチョの関与を想定する研究者もいます。例えば、ロバートソンはカルパッチョの『聖ウルスラの夢』との関連性を指摘し、ズカルビはカルパッチョを提案した後、ベッリーニ派に帰属させました。アカデミア美術館は、この作品はベッリーニによって構想され、おそらく工房によって制作されたという見解を示しています。

作品の来歴

サンタ・マリア・デイ・ミラーコリ教会のオルガンに飾られていたこの作品は、オルガンの解体とともに散逸しました。『受胎告知の聖母』は1817年にサン・フランチェスコ・デッラ・ヴィーニャ教会に、『聖ペテロ』はサンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂に寄託されました。キアロスクーロの歴史画は、教会と修道院の廃絶時に行方不明となりました。

その後、『受胎告知の天使』はロンドンのラングドン・ダグラス・コレクションで発見され、1907年に国家によって購入されました。1910年には、『受胎告知の聖母』がサン・フランチェスコ・デッラ・ヴィーニャ教会の保管庫から回収され、両作品は現在ヴェネツィアのアカデミア美術館に所蔵されています。

まとめ

ジョヴァンニ・ベッリーニの『受胎告知』は、ルネサンス期のヴェネツィア派の代表的な作品であり、美術史における重要な位置を占めています。その美しい色彩と深い精神性は、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

『イタリア・ルネサンス 都市と宮廷の文化展』アントーニオ・バオルッチ、高梨光正、日本経済新聞社（2001年）

外部リンク

アカデミア美術館公式サイト, ジョヴァンニ・ベッリーニ『受胎告知』

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