古代北東アジア人

古代北東アジア人（ANA）とは

考古遺伝学において、古代北東アジア人（Ancient North Asians, ANA）という用語は、現在より7千～4千年前のシベリア極東部、モンゴル、バイカル地方に居住していた狩猟採集民の祖先系統を指します。別名、アムール祖先系統とも呼ばれています。

ANAは約24,000年前に東アジア人から分岐したと推測されており、アルタイ山脈の東で発掘された古代人骨の分析からその存在が明らかになりました。ANAは、古代北部東アジア人（Ancient North East Asians, ANEA）というより大きなグループの下位分類に位置づけられています。

新石器時代の集団

東シベリアの先史時代の集団については、考古学的標本が不足しているため、未だ不明な点が多く残されています。これまでゲノムデータが得られている最古の集団は、中央シベリアの後期旧石器時代に存在した古代北ユーラシア人（Ancient North Eurasians, ANE）（約24,000年前）と、「基底東アジア人」に関連する田園洞人（約40,000年前）です。

モンゴルやアムール地方、満州のサルヒト（約34,000年前）やAR33K（約33,000年前）などのサンプルも存在しますが、新石器時代に至るまでの間には大きな隔たりがあります。新石器時代に入り、特定のANA遺伝子プールが確認されるようになります。

アムール地方のサンプル（AR19K、約19,000年前）からは、ANA遺伝子プールに基づく祖先が発見されており、後期旧石器時代の田園洞人関連遺伝子プールや他の東アジア系統よりもANA遺伝子プールに近いことが示されています。このことから、ANAは19,000～26,000年前に他の東アジア人集団から分岐したと考えられています。

ANAの遺伝的特徴を持つ最初の個体は、ロシア極東の悪魔の門洞窟（約5700年前）で確認されました。その後、モンゴル東部（約4686-4495年前）、モンゴル中部（約3781-3639年前）、バイカル東部からもANAの遺伝子を持つ新石器時代人が発見されています。バイカル地方西部の狩猟採集民（約5200-4200年前）や初期青銅器時代のバイカル湖集団（約2500年前）もANAのグループに含まれますが、古代北ユーラシア人（ANE）に由来する祖先成分をわずかに含むため、ANAのサンプルとは区別されます。

悪魔の門遺跡のサンプルは、約14,000年前のアムール地域のサンプルと遺伝的な連続性を示すことが判明しており、14,000年前という早い時期に特定のANA遺伝子プールが形成されたことが示唆されています。新石器時代のANAの遺跡は、沿海地方から1,500kmも西に離れたアルタイ山脈でも発見されています。

後代の集団

ウランズーク文化と石板墓文化

ウランズーク文化（紀元前1450年 - 1150年）と石板墓文化（紀元前1100年 - 300年）の人々はANAと密接な関係があり、その直系の子孫であると考えられています。

タリムのミイラ

2021年に発表されたゲノム研究によると、タリムのミイラ（紀元前2000年頃）は、高レベルの古代北ユーラシア人（約72％）と、より少ないレベルのANAのような集団（特にバイカル初期青銅器時代、約28％）の祖先系統を持っていました。西部ステップ牧畜民に関連する祖先は検出されませんでした。

アルタイ中期-後期青銅器時代およびフブスグル後期青銅器時代

この時期以降、様々な程度のシンタシュタ文化の混血を持ついくつかの後継集団がアルタイ山脈に現れ始めます。これらの集団は、東部ステップからのANAに富む集団の西方への拡大と、それに続く西部ステップ牧畜民移住集団からの混血によって形成されました。これにはモンゴル北部のフブスグル後期青銅器時代の牧畜民やアルタイ山脈のアルタイ中期-後期青銅器時代の狩猟採集民が含まれます。

フブスグル後期青銅器時代の牧畜民は、初期青銅器時代のバイカルの狩猟採集民（約93％）の子孫であり、わずかに西部ステップ牧畜民（シンタシュタ、約7％）の混血があります。遺伝子解析の結果、酪農牧畜は西部ステップ牧畜民から取り入れられたようですが、彼らは主に地元の北東アジア出身であり、文化的な伝搬を示唆しています。現代のトゥバ人は青銅器時代後期のフブスグルの牧畜民と最も遺伝的親和性の高い民族です。

さらに西のアルタイ中期-後期青銅器時代遺伝子プールは、東スキタイ人（サカ）と関連づけることができ、彼らはバイカル初期青銅器時代のグループからかなりの量の祖先（約40～55％）を由来しており、さらにシンタシタ文化人に似た集団の混血（約45～60％）を加えてモデル化することができます。

サカ、匈奴、フン、アヴァール

ANA、特にバイカル初期青銅器時代の集団は、紀元前1,000年頃から中央アジアのユーラシア・ハイブリッド文化であるタスモラ文化（サカ）の形成に大きく貢献し、その遺伝的プロファイルの約半分を占めています。

サカ文化は匈奴帝国の形成に重要な役割を果たしました。身分の高い匈奴の個体は遺伝的多様性が少ない傾向があり、彼らの祖先は基本的に東ユーラシアのウランズーク／石板墓文化、あるいは鮮卑に由来していました。ハンガリーのブダペストで4世紀半ばに埋葬されたフン族のエリートは、60％がANA、40％がサカ人であるとされています。7-8世紀のヨーロッパにおけるパンノニア平原のアヴァール、特にアヴァール人のエリートに関しても、基本的にANAを祖先とすることが確認されています（約90%）。

突厥

テュルク系の王女である阿史那皇后（551-582年）の遺骨の塩基配列が決定され、ANAと遺伝的に密接な関係があることが判明しました。このことは、阿史那皇后の部族と突厥可汗国の起源が北東アジアであることを裏付けています。

現代におけるANA祖先系統

現代においては、ANAの祖先系統はツングース系民族、モンゴル民族、北東アジアのニヴフ語を話す集団の間で最も高い割合で見られます。ANAはチュルク語族、モンゴル語族、ツングース語族の初期および現代の話者の主要な祖先を形成しており、北東アジアから西方への拡散を支えています。

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