モンゴル民族

モンゴル民族:遊牧と帝国の歴史



モンゴル民族は、7世紀から歴史の表舞台に登場した、ユーラシア大陸に大きな影響を与えた民族です。13世紀から14世紀にかけては、チンギス・カンを始祖とするモンゴル帝国がユーラシア大陸の大部分を支配下に置き、その勢力は東は日本海、西は東ヨーロッパ、南はイランにまで及ぶ広大な版図を築き上げました。現在ではモンゴル国中華人民共和国内モンゴル自治区を中心に、その多くが居住しています。

モンゴルという名称の由来



「モンゴル」という名称の起源は諸説あります。中国の史書には「蒙兀室韋」、「蒙瓦部」、「蒙古」といった表記が見られ、ペルシア語史料では「Mughūl」と記されています。ラシードゥッディーンの『集史』には「素朴で脆弱」という意味と記されていますが、モンゴル語の「mong(強い・勇猛な)」と「gul(人)」を組み合わせたもの、あるいは「ムング(銀)」という意味とする説もあります。現在、内モンゴル自治区ではモンゴル文字で「ᠮᠤᠩᠭᠤᠯ」、モンゴル国ではキリル文字で「Монгол」と表記されています。

モンゴル民族の分布と朝時代の支配体制



朝はモンゴル民族を支配下に置きましたが、その体制は複雑でした。外藩蒙古、内属蒙古、蒙古八旗の3つに区分されていました。外藩蒙古は、チンギス・ハーンの子孫や貴族を領主とする遊牧集団の総称で、現在のモンゴル国や中国の内モンゴル自治区青海省新疆ウイグル自治区などに広く分布していました。内属蒙古は、かつてハーン家やアルタン・ハーン家に属していたチャハル部と帰化城トメト部の2部で、朝皇帝の直轄下に置かれました。蒙古八旗は、17世紀朝に服属したモンゴル人集団で、朝の八旗制度の一部を構成していました。チベット高原にもモンゴル系集団が居住しており、朝による支配を受けていました。

ロシアによる支配



ブリヤート、トヴァ、カルムイクなどのモンゴル系集団は、ロシア帝国の支配下にも置かれていました。

外蒙古」と「内蒙古」



外蒙古」と「内蒙古」という概念は、19世紀後半の中国で用いられ始めました。北京を基準として、ゴビ砂漠を大まかな境界線として、モンゴル草原を地理的に区分したものです。現在、世界的には「Outer Mongolia」という呼称が用いられますが、モンゴル人自身は「北(アル)モンゴル」と呼んでおり、中国側の呼称を好んでいません。「外蒙古」の主要部を占めるハルハ族は人口の約8割を占め、「ハルハ・モンゴル」とも呼ばれます。モンゴル国は、世界で唯一のモンゴル人の独立国家であり、2005年の人口は約256万人でした。

一方、「内蒙古」は、朝時代にこの名称で呼ばれており、現在の中華人民共和国内モンゴル自治区にあたります。かつてモンゴル帝国の中心地であり、チャハル・モンゴルの支配地域でしたが、17世紀朝に編入されました。モンゴル人自身は「南(オボル)モンゴル」と呼んでいますが、モンゴル族の人口は581万人(2000年)に達し、モンゴル国の人口を上回っています。しかしながら、人口の約8割を漢民族が占めています。

モンゴル帝国の興亡とその後のモンゴル



チンギス・カン以前、モンゴルは中国史書に「蒙兀室韋」や「蒙瓦部」といった名称で登場します。11世紀には帝国に朝貢する「萌古国」として存在していました。1206年チンギス・カンモンゴル帝国を建国すると、その版図は東アジアから東ヨーロッパにまで広がりました。14世紀初頭には、元朝、ジョチ・ウルスイルハン朝チャガタイ・ハン国という4つの後継国家に分裂しましたが、1368年に元朝が朝に滅ぼされると、それぞれが独自の道を歩むことになります。元朝の残党は北元としてモンゴル高原に勢力を保ちましたが、オイラト部族の支配下に置かれました。ダヤン・ハーンがモンゴルを再統一した後、6つのトゥメン(万人隊)と呼ばれる大部族が形成され、これが現在のチャハルハルハの基礎となりました。

朝末期、朝が崩壊すると、外蒙古ではボグド・ハーン政権が樹立されました。ソ連の支援を受けた外蒙古は独立を達成し、モンゴル人民共和国(現在のモンゴル国)となりました。一方、内モンゴルは中華人民共和国の領土となり、現在も内モンゴル自治区として存在しています。

モンゴル民族の言語と文化



モンゴル国内モンゴル自治区のモンゴル人は、モンゴル語を話します。モンゴル語には、北モンゴルのハルハモンゴル語と、南モンゴルのチャハルモンゴル語という2つの主要方言があります。

モンゴル民族の伝統的な生活様式は遊牧的牧畜です。移動式住居であるゲルを使用し、季節ごとに草を求めて移動します。近年では定住する人が増え、都市部での生活も一般的になっています。17世紀以降、内モンゴルでは朝による開墾が進み、遊牧民は減少し、漢人入植者が増加しました。これにより砂漠化が深刻化しています。外モンゴルでも農業が行われていますが、生産量は低く、輸入に頼っているのが現状です。

宗教的には、古来から自然崇拝、特に天崇拝が根付いていましたが、チベット仏教も広く信仰されています。チベット仏教は、13世紀に元朝宮廷に広まり、16世紀にはアルタン・ハーンとダライ・ラマ3世の関係によって深く結びつきました。社会主義時代には宗教弾圧がありましたが、民主化後は各地で仏教行事が復活しています。

モンゴルの歴史的部族・氏族



チンギス・カン以降、モンゴル族はチンギス・カンと同祖のニルンと、その他のドルルギンに分類されました。多くのテュルク系部族もモンゴル文化圏に組み込まれていきました。ダヤン・ハーンの時代には6つのトゥメンが形成され、現在のモンゴル各部の基礎となりました。

モンゴル民族は、遊牧民としての伝統と、モンゴル帝国という大帝国を築いた歴史、そして複雑な近現代史を経て、現在に至っています。その文化と歴史は、世界史において重要な位置を占めています。

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