古代核戦争説

古代核戦争説：人類はかつて核戦争で滅亡したのか？

古代核戦争説とは、現代文明以前、はるか古代に高度な文明が存在し、彼らが引き起こした核戦争によって滅亡したとする説です。この説は、一般的な歴史観とは真っ向から対立しており、考古学者や歴史学者の間では、学術的な議論の対象となることはほとんどありません。これまで、この説を裏付ける決定的な証拠は見つかっていません。

説の内容

この説では、四大文明以前、あるいはそれらと同時期に、現在の文明をはるかに凌駕する高度な超古代文明が存在していたと主張します。この文明は、自らが開発した核兵器による大規模な戦争によって滅亡し、現在私たちが知っている最古の文明は、その後の再興した文明に過ぎないとされています。

この説を唱える主な研究者としては、日本では橋川卓也氏、海外では中国の王然氏、イギリスのデヴィッド・W・ダヴェンポート氏、イタリアのエットーレ・ヴィンセンティ氏などがいます。

根拠とされるもの

古代核戦争説の根拠として、主に以下の二点が挙げられます。

1. 古代文献の解釈: 『マハーバーラタ』、『ラーマーヤナ』、『リグ・ヴェーダ』などの古代インドの叙事詩や、聖書『創世記』などの記述の中に、核爆発を思わせる描写があると主張されています。これらの文献には、超高温の火球、強烈な熱線、衝撃波、舞い上がる土埃、そして放射線による被害を思わせる記述が含まれており、広島の原爆投下後の状況と酷似していると指摘されています。

2. 遺跡からの痕跡: パキスタンにあるモヘンジョダロ遺跡では、多数の遺体が発見されており、その一部には高温にさらされた痕跡が見られます。さらに、周辺にはガラス化した岩石（テクタイト）が広範囲に分布しています。これらの現象は、核爆発によるものだと主張する研究者もいます。 また、トルコのカッパドキア地方の地下都市遺跡を、核戦争からのシェルターとして解釈する説もあります。

モヘンジョダロ遺跡の詳細

ダヴェンポートらは、モヘンジョダロ遺跡で発見されたガラス化した岩石を、核爆発によって生じたトリニタイト（実際にはテクタイト）と主張しました。彼らは、これらの岩石や溶けた遺物が、極めて短時間に超高温にさらされたことを示す証拠だと考えました。しかし、この主張は考古学者の間では広く受け入れられていません。ガラス化現象は、核爆発以外にも、大規模な火災や火山活動などによって起こりうるためです。また、ダヴェンポートが主張した「ガラスになった町」の存在自体も、確認されていません。

批判と反論

古代核戦争説に対する批判は数多くあります。まず、古代文献の解釈は恣意的であり、核爆発とは異なる現象を誤って解釈している可能性があります。遺跡で見つかった遺物についても、核爆発以外の原因で説明できる可能性が高いとされています。さらに、ダヴェンポートらの主張を裏付ける証拠の多くは、信憑性に欠ける、あるいは捏造された可能性も指摘されています。 現代の検証技術を用いても、古代核戦争説を支持する明確な証拠は見つかっていません。

説の衰退

古代核戦争説は、冷戦時代の核戦争への恐怖感が背景にありました。しかし、冷戦終結後、核戦争の脅威が減少したことで、この説への関心も薄れていきました。さらに、核の冬理論など、核戦争による人類滅亡の可能性が指摘されるようになったことも、この説の説得力を弱める要因となりました。

まとめ

古代核戦争説は、魅力的な仮説ではありますが、現在では考古学的、科学的な証拠によって裏付けられていない、疑似科学的な説とみなされています。古代文明の謎を解き明かすためには、より厳密な調査と検証が必要不可欠です。 様々な古代の謎を説明しようとする試みの一つとして理解するべきであり、歴史的事実として受け入れるべきではありません。

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