古在由直

古在由直：日本の農芸化学の先駆者

古在由直（こざい よしなお）は、1864年1月28日に京都で生まれ、1934年6月18日に亡くなった日本の農芸化学者です。東京帝国大学の総長を務めるなど、教育者としても大きな足跡を残しました。彼の業績は、土壌、肥料、発酵化学といった分野に及び、日本の農業の発展に大きく貢献しました。

生涯

古在由直は、京都の柳下家に生まれましたが、後に母の実家である古在家の養子となりました。当初は軍人を志し上京しましたが、身長が足りず断念。その後、新聞記者を目指して築地英語学校に入学しますが、友人の勧めで駒場農学校（現在の東京大学農学部）に進学しました。ここで、ドイツ人農芸化学者オスカル・ケルネルに師事し、農芸化学の道へと進みます。

1886年に駒場農学校を卒業後、ケルネルの助手として研究活動をスタート。翌年には、東京農林学校の助教授、さらに1889年には教授に就任。1890年には帝国大学農科大学助教授となります。この頃、足尾鉱毒事件の被害農民から依頼を受け、同僚の長岡宗好とともに学術調査を実施し、1892年に被害原因が銅であることを科学的に証明しました。この調査結果は、農民の補償要求に大きく貢献しました。また、同年には女性活動家の清水紫琴と結婚しています。

1895年には、ドイツのライプニッツ大学に留学し、牛乳腐敗菌の研究で博士号を取得。帰国後の1900年に東大農科大学教授に就任しました。1905年には農事試験場の技師および場長を兼任し、1911年には東京帝国大学農科大学の学長に就任。その後、東京帝国大学が農学部となると、引き続き学部長を務めました。1920年には東京帝国大学総長に就任し、関東大震災後の大学復興に尽力。1925年に総長に再選され、1928年まで務めました。

業績

古在由直の業績は多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の点です。

足尾鉱毒事件の解決：足尾鉱毒事件では、科学的な分析によって銅が原因であることを立証し、農民の立場を擁護しました。この活動は、世論を喚起し、社会問題解決への科学者の役割を示す上で重要な出来事でした。
非常時農業対策への貢献：日露戦争時には、非常時農業対策に参画し、食糧供給の安定に貢献しました。
大学復興への尽力：関東大震災で大きな被害を受けた東京帝国大学の復興を主導しました。彼のリーダーシップの下、大学の再建が進められました。
ワシントンの桜贈呈：ワシントンに贈られた桜の苗木が病害で焼却処分された際、その代替となる3000本の桜の育成を指揮しました。この桜は、日本とアメリカの友好の象徴として今もなお大切にされています。

著作

古在由直は、数多くの著作も残しています。

『醗酵論』：発酵に関する研究成果をまとめた著作です。
『醗酵化学研究法』：発酵化学の研究方法について解説した専門書です。
* 『鳥類の脚気様疾病に関する研究並に白米の食品としての価値』：鳥類の脚気様疾病に関する研究をまとめた共著です。

家族・親族

古在由直の家族もまた、様々な分野で活躍しています。妻の豊子は、自由民権運動の活動家・小説家として知られる清水紫琴です。長男の由正は東洋史学者、次男の由重はマルクス主義哲学者として名を馳せました。また、孫には天文学者の古在由秀や、農学博士で千葉大学長を務めた古在豊樹がいます。彼の家系は、学術や文化に貢献する人材を輩出し続けています。

古在由直は、日本の農芸化学の発展に尽力しただけでなく、教育者、社会活動家としても大きな影響を与えた人物でした。彼の足跡は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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