東京農林学校

東京農林学校：日本の農学教育の礎

東京農林学校は、明治時代に設立された日本の旧制教育機関であり、現在の東京大学農学部の前身にあたる重要な存在です。この学校は、日本の農学教育、研究の発展に大きく貢献し、後進の帝国大学農科大学、東京帝国大学農学部、さらに筑波大学や東京農工大学へとその流れを繋いでいます。

設立と変遷

1886年、政府の財政難を背景に、農商務省所管の駒場農学校と東京山林学校が合併し、東京農林学校が誕生しました。この合併により、両校の教育資源が統合され、本科と別科が設置されました。教職員も両校から引き継がれ、農学部、林学部、獣医学部という3つの学部が設けられました。当初、在学年数は予科3年、農学部・林学部が2年、獣医学部が3年と定められましたが、2年制の速成科も設けられました。

1888年には校則改正が行われ、各学部に本科として農科、林科、獣医科が設置され、農科、林科には別科も設けられました。修学年限は予科3年、本科3年の6年制へと移行しました。しかし、1889年には学部制に戻り、別科は乙科となりました。この時、農商務大臣井上馨の判断で、各学部の卒業生には農学士、林学士、獣医学士の各学士号が授与されることになり、東京農林学校の卒業生は、実質的に帝国大学卒業者と同等の処遇を受けることになりました。

学士号付与をめぐる論争

東京農林学校卒業生への学士号付与に対して、文部大臣の榎本武揚は「帝国大学の分科大学と東京農林学校の学生の学力は同等ではない」と異議を唱えました。しかし、農林教育を重視する政府の方針のもと、1890年6月9日に文部大臣と農商務大臣が連名で、時の首相山縣有朋に農科大学設置の閣議請議文を提出しました。

農科大学の設立は、学務局長の濱尾新の尽力により進められましたが、設立評議会では「最高学府の分科大学として不適当」という反対意見が相次ぎ、評議官が総辞職する事態となりました。最終的には、1890年6月12日に東京帝国大学に農科大学を設置することが決定し、松井直吉が初代学長に就任しました。農科大学は従来の理学部から分離し、農学科を2つに分け、農芸化学を中心に植物学、物理学、動物学などを専攻させる方針が採られました。

農科大学としての発展

帝国大学令第十八条に基づき、農科大学には農学科（第一部と第二部）、林学科、獣医学科が設置され、修業年限は3年と定められました。東京農林学校の制度を基に、独自の学科課程が編纂され、旧東京農林学校の在学生が編入されました。その後、農科大学は農林学校専科と別科を農業実地者養成の乙科に継承しました。これは後に東京帝国大学農学部実科となり、東京高等農林学校から東京農工大学農学部へと繋がっています。

さらに、農科大学には附属農業教員養成所が設置され、これが東京教育大学農学部を経て、筑波大学農林学系へと発展しました。1893年には講座制に移行し、1897年には東京帝国大学農科大学となりました。1906年からは新渡戸稲造が東京帝国大学農科大学教授を務めました。学科は1910年に5学科に拡充され、1919年には東京帝国大学農学部として再編されました。1935年には本郷から現在の文京区弥生に移転し、駒場は後に東京大学駒場地区キャンパスとなりました。

多くの卒業生たち

東京農林学校、そしてその後の農科大学からは、多岐にわたる分野で活躍する多くの人材が輩出されました。

土壌学: 鈴木重禮
分析学: 鈴木梅太郎、後藤格次
化学: 田村三郎、高橋克己、坂口謹一郎
教育・行政: 古在由直（東京帝国大学総長）、長岡宗好、本多静六、本郷高徳、高橋延清
政治:岡田温、諸橋襄、有馬頼寧、徳川宗敬
地方行政: 横川信夫
農業史: 古島敏雄
稲研究: 加藤茂苞、近藤萬太郎
造園学: 折下吉延、上原敬二、佐藤昌、関口鍈太郎、田阪美徳、田治六郎
林学: 森蘊、森一雄
農業工学: 北村徳太郎、吉永義信、横山信二、上野英三郎
農業経済学: 矢作栄蔵
食糧研究: 稲垣乙丙
遺伝学: 外山亀太郎

これらの卒業生たちは、日本の近代化、そして各分野の発展に大きく貢献しました。

校長

前田献吉：1886年7月22日 - 1889年3月15日
高橋是清（兼）：1889年3月15日 - 1889年10月30日
前田正名（兼）：1889年10月30日 - 1890年1月16日

まとめ

東京農林学校は、その短い歴史の中で、日本の農学教育の基盤を築き、多くの優秀な人材を育成しました。その流れは、現在の東京大学農学部、筑波大学、東京農工大学へと受け継がれ、日本の農学、林学、獣医学の発展に大きな役割を果たし続けています。

外部リンク

東大[農学]]部の歴史：[https://www.ne.jp/asahi/bunko/enkaku/nempyo1.htm

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