古川古松軒

古川古松軒（ふるかわ こしょうけん）：江戸後期の旅する地理学者

古川古松軒は、江戸時代後期の備中国（現在の岡山県）に生まれた旅行家であり、地理学者です。従来の文学的な紀行文とは一線を画し、自身の体験に基づいた学術的な考察を盛り込んだ紀行文や地誌を著しました。

生涯

若年期

享保11年（1726年）に備中国に生まれた古松軒は、若い頃は荒れた生活を送りました。京都で過ごした後、実家に戻り薬の商売を始めますが、博打に明け暮れる日々を送ります。しかし、明和6年（1769年）に改心し、生活を立て直す決意をしました。

紀行家として

天明3年（1783年）に山陽・九州を巡る旅に出て『西遊雑記』を著し、天明7年（1787年）には東北地方への旅を計画し、翌年には幕府巡見使の随員として奥羽地方や松前（現在の北海道）を巡り『東遊雑記』を著しました。これらの紀行文は、単なる名所巡りではなく、各地の地理や風俗、経済状況などを詳細に記録し、学術的な価値も高く評価されています。

幕府への登用と地誌編纂

寛政元年（1789年）には、その才能が幕府に認められ、松平定信に召し出されます。奥州や松前の紀行文を献上し、測量術を説明したことが評価され、寛政6年（1794年）には幕命により武蔵国の地誌『四神地名録』を編纂しました。これは、江戸近郊の地理や歴史、文化を記録した貴重な資料となっています。

晩年

寛政7年（1795年）に帰郷した古松軒は、岡田藩から苗字帯刀を許され、士分に取り立てられました。隠居後は、竹亭を結び、著作活動に専念しました。文化4年（1807年）に82歳で亡くなりました。

業績と特徴

古松軒の紀行文は、以下の点で従来のものとは異なっています。

実見・実感を重視: 旅先で自ら見聞きし、体験したことを詳細に記述しています。
学問的考察: 地理、経済、軍事など、様々な視点から考察を加えています。
批判精神: 上方や中国筋を基準に、各地の不便さや後進性を批判的に評価しています。
徹底した経験主義・現実主義: 神秘的な世界を拒否し、現実を直視する態度を持っています。

文学史的には、ヘルベルト・プルチョウによって貝原益軒と共に日本における近代文学の先駆者と評されています。

主な著作

山野地里津河: 上方への旅の記録
西遊雑記: 山陽・九州の旅の記録
東遊雑記: 奥羽地方・松前の旅の記録
四神地名録: 武蔵国の地誌

これらの著作は、当時の社会や文化を知る上で貴重な資料となっています。

子孫

古川家は代々続き、子孫は様々な分野で活躍しました。中には、古松軒の顕彰活動に尽力した人物もいます。

まとめ

古川古松軒は、江戸時代後期の紀行家・地理学者として、独自の視点と学問的な考察に基づいた紀行文や地誌を著しました。彼の作品は、当時の社会や文化を知る上で貴重な資料であるとともに、近代文学の先駆けとしても評価されています。

彼の徹底した経験主義と現実主義は、現代においても学ぶべき点が多く、その足跡は今もなお、私たちに影響を与え続けています。

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