古市六三

古市 六三（ふるいち ろくぞう）は、1885年（明治18年）6月25日に生まれ、1961年（昭和36年）3月10日にその生涯を終えた、日本の近代史における多才な人物です。彼は鉱山技術者、実業家として産業界を牽引する一方で、政治家として貴族院に議席を持ち、さらに華族として男爵の爵位を保持していました。

東京で生まれた古市六三は、著名な工学者であった父、古市公威の長男でした。父公威が逝去したことに伴い、六三は1934年（昭和9年）3月1日付で男爵位を継承し、華族の一員としての地位を確立しました。

彼の学術的なキャリアは、東京帝国大学工科大学で始まりました。1910年（明治43年）7月、同大学の採鉱及冶金学科を卒業。この分野での深い知識が、後の実業家としての成功の基盤となります。

大学卒業後、彼はすぐに住友総本店に入社しました。これは、当時の日本の主要な財閥の一つであり、彼の才能が開花する舞台となりました。住友では、別子鉱業所の採鉱課主任を務めたのを皮切りに、住友合資、そして住友本社の技師長を歴任するなど、技術畑で重要な役割を果たしました。

実業家としての古市六三の活動は多岐にわたりました。住友グループの中核である住友鉱業の取締役を務めたほか、昭和鉱業、帝国鉱業開発では副社長を経て社長に就任し、経営者としての手腕を発揮しました。さらに、東北亜鉛鉱業の社長、藤田組の会長など、鉱業や建設業といった基幹産業において数多くの要職を歴任しました。また、日本の鉱業界全体の発展にも貢献し、日本鉱業会の会長も務めています。

政治の世界においては、1942年（昭和17年）1月17日に行われた貴族院男爵議員の補欠選挙で当選を果たしました。貴族院では公正会に所属し、議員として活動。その任期は、貴族院が廃止された1947年（昭和22年）5月2日まで続きました。この間、彼は石炭生産能力調査委員会や鉄道省、運輸通信省の委員など、国家の重要な政策決定に関わる委員会の委員としても活躍しています。

産業や政治の分野だけでなく、スポーツ振興にも情熱を注いだ人物でもあります。特に、日本の漕艇（ボート競技）の発展における先駆者の一人として知られており、日本の漕艇を統括する日本漕艇協会（現在の日本ローイング協会）の会長を務め、競技の普及と向上に貢献しました。

私生活では、佐々木忠次郎の三女である千穂を妻に迎えました。二人の間には長男の功、長女の治子（長松太郎に嫁ぐ）、そして二女の倭子（浅野財閥の浅野泰治郎の長男、浅野一治に嫁ぐ）が生まれました。子供たちの結婚からも、古市家が当時の日本の有力な家系と結びつきを持っていたことがうかがえます。

古市六三の生涯は、明治、大正、昭和という激動の時代において、鉱業、実業、政治、そしてスポーツといった多方面で重要な役割を果たした、日本の近代化を支えた世代の一人として記憶されるべきでしょう。

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