古谷綱正

古谷綱正：型破りなジャーナリストの生涯

古谷綱正（1912-1989）は、日本のジャーナリズム史に名を刻む人物です。毎日新聞社論説委員として活躍した後、TBSの報道番組『JNNニュースコープ』のメインキャスターを務め、国民的な人気を博しました。その生涯は、型破りな学生時代から始まり、ジャーナリストとしての成功、そして多岐にわたる社会活動に彩られています。

学生時代：反骨と知性

東京生まれの古谷は、旧制成城高等学校時代から型破りな行動で知られていました。喫煙や映画館通い、そして授業さぼりなど、非行に走ることもありました。尋常科では落第寸前まで追い込まれましたが、同校の独自の教育システムを駆使してなんとか卒業。高等科では左翼運動に関与し、警察に検挙されるという経験もしています。しかし、その反骨精神と並外れた知性は、彼を京都帝国大学文学部へと導きました。1932年、定員割れだった美学専攻への入学は、事実上無試験だったといいます。大学時代には、滝川事件において大学自治の擁護を訴え、学生運動の中心人物として活躍しました。

ジャーナリストとしてのキャリア：スクープと論説

1935年、古谷は東京日日新聞社（のちの毎日新聞社）に入社。整理部、学芸部などを経て、1941年12月8日には、日米開戦のニュースをいち早く報じる、歴史的なスクープ記事作成に携わりました。その後、論説委員として10年間『余録』という巻頭コラムを担当。鋭い視点と明快な文章で、世相を鋭く切り取っていきました。

『JNNニュースコープ』：国民的キャスター

1964年から1981年まで、古谷はTBSの『JNNニュースコープ』のメインキャスターを務めました。優しく親しみやすい語り口と分かりやすい解説で、多くの視聴者の支持を集め、「日本のウォルター・クロンカイト」と称されるほどの人気キャスターとなりました。TBSスタッフからは「こってすオジサン」という愛称で呼ばれていました。これは、彼の口癖だった「…ということです」が「こってす」と聞こえたことに由来するものです。その人気は、漫画『まことちゃん』に登場するニュースキャスターにも反映されているほどでした。

キャスター引退後：多様な活動

キャスター引退後は、映画評論の執筆や、地元の環境保護運動などにも積極的に参加。神奈川県逗子市の米軍住宅建設反対運動では、三島虎好市長のリコール運動の発起人となり、緑の保存を訴える地元文化人のリーダーとして活躍しました。宮内庁からの園遊会への招待を生涯にわたって断り続けたという逸話も残っています。

華麗なる一族

古谷家には、外交官や文化人など著名人が多く含まれています。祖父はペルー公使、父はアルゼンチン公使を務めた外交官です。実兄は文芸評論家の古谷綱武、義姉は家事評論家の吉沢久子。甥にあたる古谷昭綱はTBSに入社し、『8時だョ!全員集合』のディレクター・プロデューサーを務めました。また、義弟は俳優の滝沢修です。さらに、古谷家は、室田家、森家、安西家、正田家と姻戚関係にあり、天皇家とも遠縁にあたります。

死去とその後

古谷綱正は1989年5月11日、肺炎のため77歳で亡くなりました。彼の死後、妻である糸子は回想録『こんばんは、古谷綱正です―あるジャーナリストの肖像』を出版し、夫の生涯と業績を後世に伝えています。

古谷綱正の生涯は、ジャーナリズムの枠を超えた、知性と行動力に満ちた人生でした。彼の業績は、日本のジャーナリズム史、そして社会運動史において、これからも重要な位置を占めるでしょう。

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