台湾文化協会

台湾文化協会の設立と初期の活動

台湾文化協会は、1921年（大正10年）に日本統治下の台湾で設立された、文化的な啓蒙活動を目的とした民間団体です。医師の蔣渭水が提唱し、林献堂が中心となって青年学生を集め、同年10月17日に設立大会が開催されました。台北市の大稲埕にあった静修女子学院（現在の静修女中）で行われたこの大会には、医師、地主、公学校卒業者、海外留学経験者など、1000人を超える人々が参加しました。設立大会では、林献堂が総理に就任し、王敏川、林呈禄、蔡恵如、李応章、林幼春、蔡培火、連温卿などが主要なメンバーとして名を連ねました。この協会は、同化会や新民会の流れを汲むものであったと言われています。

同協会は、同年11月30日の発足総会で、医師でもある蔣渭水が「台湾診断書」と題する演説を行いました。この演説では、台湾人を患者、台湾の現状を病気に例え、「台湾人は知識の栄養不足症である。文化運動こそが唯一の治療薬であり、文化協会は治療を施す機関である」と述べ、協会の設立趣旨を明確に示しました。

文化啓蒙活動と政治運動

台湾文化協会の目的は、台湾の人々が文化活動に積極的に参加し、その質を高めることを奨励する文化啓蒙活動でした。同時に、同年に始まった台湾議会設置請願運動と並行して、台湾社会を活性化させ、台湾人の自己向上を促しました。1923年から1927年にかけて行われた講演会や講習会は、協会の中でも特に影響力のある活動でした。連雅堂による台湾史と漢文講座、林茂生による西洋史講座、蔣渭水による公衆衛生講座など、弁護士や学者による法律講座、経済学講座も開催されました。1925年と1926年の2年間で、これらの講座の受講者は23万人に達したという記録があります。

これらの活動は、協会の機関紙である『台湾民報』を通じて広報され、台北市、新竹市、台中市、員林鎮、台南市などに十数カ所の活動拠点が設けられました。1924年からは、夏休みを利用した「夏季学校」も開始され、協会総理の林献堂が自宅を提供し、大衆教育に力を注ぎました。さらに、専務理事であった蔡培火は、映画が教育に果たす役割に着目し、1925年には東京から社会教育映画を十数本購入し、社会教育に活用しました。

協会の分裂と衰退

活発な活動を行っていた台湾文化協会でしたが、1927年頃から内部対立が表面化しました。連温卿の勧めで参加した左派青年が協会内で主流となり、右派のメンバーが脱退する事態となりました。連温卿や王敏川を中心とする左派は新文協を1月3日に結成し、一方、蔣渭水や蔡培火を中心とする右派は、5月29日に台湾民党を設立、その後7月10日に台湾初の合法政党である台湾民衆党を結成しました。

左派が実権を握った新文協は、講演会活動を継続する傍ら、左派農民との共同戦線を結成し、農民労働者運動に積極的に介入しました。また、『台湾大衆時報』を創刊し、新劇活動を通じて自己の理想を宣伝しました。しかし、間もなく王敏川が率いる「上大派」（上海大学留学経験者が主体）と連温卿派との対立が激化し、活動は衰退していきました。

謝雪紅が中心となって台湾共産党が設立されると、文化協会や台湾農民組合に大きな影響を与えるようになりました。連温卿派が失脚し、1929年には除名処分を受けると、文協台北支部は廃止され、その後は台湾共産党の附属組織と化しました。

組織の消滅

度重なる組織の分裂と、多くの会員が逮捕されたことにより、台湾文化協会は1930年（昭和5年）12月に解散し、その活動は終焉を迎えました。

台湾文化協会は、短期間の活動でしたが、台湾の文化と社会運動に大きな影響を与えた団体でした。

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