台湾総督府鉄道600形蒸気機関車

台湾鉄路管理局 DT560形蒸気機関車

DT560形は、日本統治時代の台湾総督府鉄道が導入し、後に台湾鉄路管理局で使用された過熱式テンダ式蒸気機関車です。総督府鉄道時代は600形と呼ばれ、14両が製造されました。

概要

1919年（大正8年）、縦貫線の貨物輸送力増強のため、鉄道院9600形と同等の機関車の導入が計画されました。しかし、当時の日本のメーカーは鉄道院向けの需要で手一杯であり、納期が遅れる見込みでした。そこで、9600形の仕様を基に、アメリカン・ロコモティブ社のスケネクタディ工場で製造されたのが本形式です。

この経緯から「アルコのキューロク」とも呼ばれますが、実際にはアメリカ流の設計が色濃く反映されています。例えば、棒台枠、ランボードの高さ、運転台の形状、筒状の蒸気管覆い、1-2軸片ボギー式の炭水車など、9600形とは異なる特徴が多く見られます。しかし、動輪の直径や間隔、ボイラーの高さといった主要な寸法や諸元は、9600形に準拠しています。

DT560形は、1920年（大正9年）から1921年にかけて、以下のスケジュールで納入されました。

1920年5月（1919年12月製造）: 600 - 602（製造番号58779 - 58781）
1920年7月（1920年2月製造）: 603 - 606（製造番号61612 - 61615）
1921年（1920年製造）: 607 - 613（製造番号62548 - 62554）

当初、最初の7両は台北庫に配置され、残りの7両は台北庫に6両、苗栗庫に1両が配置されました。1923年（大正12年）頃には、台北庫に3両、新竹庫に5両、彰化庫に6両が配置され、台北庫の車両には後述する微粉炭燃焼装置が搭載されていました。1927年（昭和2年）には、台北庫に5両、彰化庫に6両、高雄庫に3両が配置されましたが、800形に置き換えられるにつれて徐々に南下し、1935年（昭和10年）には嘉義庫に6両、高雄庫に8両が集中配置されるようになりました。

また、本形式は仕様の不備からか、アメリカ式の右側運転台でしたが、使用上の不便から1928年（昭和3年）から翌年にかけて標準的な左側運転台に改造されました。ブレーキ装置についても、1929年（昭和4年）から翌年にかけて、当初の真空ブレーキから空気ブレーキに換装されています。

1937年（昭和12年）の称号規程改正ではD96形と改称されましたが、番号の変更はありませんでした。太平洋戦争終戦時には全車が現存しており、そのうち9両が稼働状態にありました。戦後は台湾鉄路管理局に引き継がれ、DT560形（DT561 - DT574）として1970年代後半まで使用されました。

現在、DT561が苗栗鉄道文物展示館に静態保存されています。

微粉炭燃焼装置

DT560形の特徴の一つに、微粉炭燃焼装置があります。これは、蒸気タービンでファンとスクリューを回転させ、粉末状にした石炭を火室内に吹き込む装置です。613号機には製造当初から搭載され、後に609 - 612号機にも追加されました。

台湾総督府鉄道は、この装置に将来性を見出し改良に取り組みました。当時は「乗るなら高雄あたりのB6よりも、台北機関庫の微粉炭機」と謳われるほどでしたが、微粉炭は湿気を帯びやすく、動作不良が頻発しました。また、不純物に弱く、取り扱いが非常にデリケートでした。

さらに、微粉炭への引火による爆発事故が相次ぎ、火災や死傷者が発生したため、1927年（昭和2年）に実用化は断念されました。609 - 612号機は直ちに手焚きに改造され、最後に残った613号機も長期の休車後、1934年（昭和9年）に手焚きに改造され、微粉炭燃焼装置はその役割を終えました。

主要諸元

全長: 16,291mm
全高: 3,747mm
全幅: 2,591mm
軌間: 1,067mm
車軸配置: 2-8-0(1D)
動輪直径: 1,250mm
弁装置: ワルシャート式
シリンダー（直径×行程）: 508mm×610mm
ボイラー圧力: 12.7kg/cm2
火格子面積: 2.15m2
全伝熱面積: 163.34m2
過熱伝熱面積: 32.05m2
全蒸発伝熱面積: 131.29m2
煙管蒸発伝熱面積: 119.40m2
火室蒸発伝熱面積: 11.89m2
大煙管（直径×長さ×数）: 137mm×4,039mm×21本
小煙管（直径×長さ×数）: 51mm×4,039mm×130本
機関車運転整備重量: 60.76t
機関車空車重量: 41.16t
機関車動輪上重量（運転整備時）: 53.24t
機関車最大動輪軸重（各軸均等）: 13.31t
炭水車運転整備重量: 30.38t
水タンク容量: 12.27m3
燃料積載量: 2.9t

参考文献

車輛工學會「全國機關車要覧」1929年 溝口書店刊（1993年復刻 アテネ書房）
寺島京一「台湾鉄道の蒸気機関車について」1988年 レイル No.23 エリエイ出版部プレス・アイゼンバーン
小熊米雄「旧 台湾総督府鉄道の機関車（終）」鉄道ピクトリアル1957年10月号(No.75)
* 小熊米雄「台湾総督府鉄道の機関車」鉄道ファン1967年3月号(No.69)

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