史蹟名勝天然紀念物保存法

史蹟名勝天然紀念物保存法について

「史蹟名勝天然紀念物保存法」は、大正8年（1919年）に公布された、日本の文化財保護制度の礎となった法律です。この法律は、現在の文化財保護法の前身の一つであり、特に「記念物」と呼ばれる文化財の保存に焦点を当てていました。

制定の背景

明治時代後期から大正時代にかけて、日本は急速な近代化を遂げ、各地で鉄道や工場建設などの開発が進められました。その結果、多くの史跡、名勝、天然記念物などの文化財が破壊の危機に瀕しました。この状況を憂慮した人々によって、これらの文化財を保護する運動が起こり、その中心となったのが、東京帝国大学の黒板勝美と三好学でした。

黒板は、遺跡保存の先進地であったイギリスでの留学経験から、「史跡」という言葉を使い、三好はドイツの自然保護の概念を参考に「天然記念物」という言葉を用いました。この二つの異なる視点から生まれた言葉が合わさり、「史蹟名勝天然紀念物」という長い名称の法律が誕生しました。

法律の内容

「史蹟名勝天然紀念物保存法」では、以下のような内容が規定されました。

内務大臣が史跡、名勝、天然記念物を指定し、その保存のために地域を定め、一定の行為を制限・禁止できること。
内務大臣が地方公共団体に記念物の管理を委託できること。
現状変更等の制限や環境保全命令の規定。
違反に対する罰則。

この法律は当初、旧内務省が所管していましたが、後に文部省へと移管されました。

関連法令

この法律に関連して、以下のような法令も制定されました。

「史蹟名勝天然紀念物調査会官制」（大正8年）
「史蹟名勝天然紀念物保存法施行令」（大正8年）
* 「朝鮮総督府宝物古蹟名勝天然記念物保存会官制」（昭和8年）

また、この法律は昭和22年と昭和25年に改正されています。

廃止とその後

昭和24年に発生した法隆寺金堂の火災を契機に、文化財保護の重要性が再認識され、昭和25年、「史蹟名勝天然紀念物保存法」は「国宝保存法」「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」とともに廃止されました。これらの法律は、新たに制定された文化財保護法へと引き継がれることとなりました。

しかし、自然記念物を文化財として扱う国は少なく、環境庁（現在の環境省）が発足した際には、環境行政の一環として天然記念物を保護しようという動きもありましたが、実現には至っていません。

明治天皇聖蹟の指定解除

「史蹟名勝天然紀念物保存法」に基づいて史跡に指定されていた明治天皇ゆかりの場所（明治天皇聖蹟）は、新しい日本国憲法にそぐわないという理由で、昭和23年に一斉に指定解除されました。

まとめ

「史蹟名勝天然紀念物保存法」は、日本の文化財保護の歴史において重要な役割を果たした法律です。この法律の制定は、近代化の中で失われつつあった文化財を守ろうとする人々の強い思いの表れであり、その精神は現在の文化財保護法へと受け継がれています。この法律を理解することは、日本の文化財保護の歴史を深く知る上で不可欠です。

もう一度検索