記念物

記念物とは

日本の文化財保護制度において、「記念物」は重要な役割を担っています。文化財保護法で定められた文化財の一種であり、私たちの歴史や文化、自然を今に伝える貴重な存在です。

文化財保護法における「記念物」

文化財保護法第2条第1項第4号において、「記念物」は以下のように定義されています。

貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとつて歴史上又は学術上価値の高いもの、庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地で我が国にとつて芸術上又は観賞上価値の高いもの並びに動物（生息地、繁殖地及び渡来地を含む。）、植物（自生地を含む。）及び地質鉱物（特異な自然の現象の生じている土地を含む。）で我が国にとつて学術上価値の高いもの

この定義から、「記念物」は大きく以下の3つに分類されることがわかります。

1. 史跡：貝塚、古墳、城跡などの遺跡
2. 名勝：庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳などの景勝地
3. 天然記念物：動物、植物、地質鉱物

これらの「記念物」は、いずれも土地と深く関わっている点が特徴です。動物の種を指定する場合を除き、指定対象はある一定範囲の土地となります。

記念物の詳細

文化財保護法第7章（第109条から第133条）では、「史跡名勝天然記念物」として「記念物」が扱われています。この「史跡名勝天然記念物」の指定基準は、『特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準』に定められています。

国指定「記念物」の内訳

2024年10月11日現在、国が指定する「記念物」の内訳は以下の通りです。

史跡：1,905件
特別史跡：64件
名勝：431件
特別名勝：36件
天然記念物：1,040件
特別天然記念物：75件

これらの件数は、史跡、名勝、天然記念物の重複指定を含んでおり、重複指定を1件と数えると、実指定件数は3,263件となります。

登録記念物

国や地方公共団体の指定を受けていない「記念物」のうち、特に保存と活用が必要なものは「登録記念物」として登録されます。主に近代のものが対象で、2024年10月11日現在、134件が登録されています。

地方公共団体の指定

地方公共団体も条例に基づき「記念物」を指定しており、その分類は国の指定に準じています。

記念物における二段階指定制度

「記念物」には、二段階指定制度が存在します。これは、国指定の「記念物」のうち、特に重要なものを「特別」の名を冠して、特別史跡、特別名勝、特別天然記念物として指定する制度です。

二段階指定制度の背景

この制度は、文化財保護法制定当時、限られた財源の中で、特に重要な文化財を重点的に保護する必要があったために導入されました。現在では、文化財の資料価値のランクを示すものとして捉えられることもあります。

日本の旧法による記念物保護

1919年（大正8年）の「史蹟[[名勝天然紀念物保存法]]」によって、日本の「記念物」保護制度が確立しました。

この法律では、「史蹟」という用語は、遺跡保存運動の中心人物であった黒板勝美が、国史学で用いられていた言葉を採用したものです。

一方、「天然紀念物」は、東京帝国大学の植物学教授三好学がドイツの「自然記念物」の概念を導入したものです。

海外における記念物保護

ヨーロッパでは、16世紀以降、文化財保護の動きが見られるようになりました。

1515年：ローマ教皇レオ10世がラファエロを古代文物調査官に任命
1666年：スウェーデン政府が遺跡保護を布告
1721年：ポルトガル国王ジョアン5世が大航海時代の記念物を保護
1834年：ギリシア王国が記念物法を施行
1887年：フランスで歴史記念物法が制定

これらの動きは、近代国家が文化財保護のための法体系を整備していく上で重要な役割を果たしました。

補足

「記念物」は、複数の種別にまたがって指定されることもあります。例えば、「十和田湖および奥入瀬渓流」は、「特別名勝」と「天然記念物」の両方の指定を受けています。

参考文献

椎名慎太郎『遺跡保存を考える』岩波書店、1994年
田中琢「文化財保護の思想」田中琢・佐原眞『考古学の散歩道』岩波書店、1993年

外部リンク

文化庁ホームページ
国指定文化財等データベース
文化遺産オンライン
日本文化財科学会
文化財保護法-法庫 - ウェイバックマシン（2000年12月2日アーカイブ分）
文化庁「文化財指定等の件数」
新しい文化財保護のあり方―文化財保護法の改正をめぐって―（『文化財信濃』31.4）
* 文化財保護の発展と流れ

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