明治天皇聖蹟

明治天皇聖蹟とは

明治天皇聖蹟とは、明治天皇が全国各地を行幸された際に、滞在や訪問された場所、関連する建物などを指します。これらの場所は、明治天皇の事績を偲び、その徳を顕彰するために、多くが史跡として指定されました。

史蹟指定の経緯

明治天皇の聖蹟は、1919年に制定された史蹟[[名勝天然紀念物保存法]]に基づき、史跡として指定されました。この法律の制定には、史蹟名勝天然紀念物保存協会が大きく関わっています。

同協会は、内務省の地方局の支援を受け、東京帝国大学の黒板勝美が提唱した、史蹟名勝保護を国民教化の手段とする考え方を背景に、1911年に発足しました。協会は、ドイツの文化財保護を参考に、史蹟名勝の保存を通して国民の愛国心を高めることを目指しました。1912年7月に明治天皇が崩御すると、全国的に聖蹟を保存したいという機運が高まり、協会は聖蹟の調査を開始しました。

戸川安宅らによって行われた調査結果は、協会の機関誌『史蹟名勝天然紀念物』に掲載され、1928年に史蹟名勝天然紀念物保存が文部省に移管されてから、明治天皇聖蹟の保存が本格化しました。聖蹟の指定は、単に施設の保護だけでなく、国民教化を目的とする側面も強く、政治的な意図も含まれていたと言えます。

聖蹟指定の本格化

1930年には、明治天皇聖蹟保存会が設立され、調査活動の中心となりました。保存会は、聖蹟の調査と保存、そして聖徳の顕彰を目的としており、会長には西郷隆盛の甥である西郷従徳が就任しました。

1933年、文部省は帝国議会の協賛を得て予算を確保し、聖蹟の指定を開始しました。全国1,375か所の紀念址・駐輦址・行在所・野立所の中から、特に重要な場所が国によって選ばれ、顕著な聖徳事蹟であること、行在所の建物が原位置で良く保存されていることなどが指定の基準とされました。1933年から1937年にかけて、多くの聖蹟が史跡に指定されました。

史跡指定の解除

第二次世界大戦後、占領軍GHQの指示により、1948年6月29日に明治天皇聖蹟377件の史跡指定は一斉に解除されました。これは、天皇崇拝を助長するとして、神道指令による政治的な措置の一環として行われたものです。GHQの担当者であったシャーマン・リーは、聖蹟の指定は天皇崇拝の一形態であり、日本超国家主義の台頭と結びついていると指摘しました。

文部省の史蹟名勝天然紀念物調査会も満場一致で解除を可決し、文部大臣は、史跡の指定が新憲法の精神にそぐわないと判断したことを発表しました。指定解除後、聖蹟の建物は多くが解体されましたが、記念碑は各地に残されました。

聖蹟と地域との関わりの事例

明治天皇聖蹟は、単なる歴史的な場所としてだけでなく、地域社会と深く結びついていました。ここでは、いくつかの事例を通して、その関わりを見ていきましょう。

聖蹟桜ヶ丘

京王線聖蹟桜ヶ丘駅の駅名は、明治天皇の行幸に由来します。明治天皇は、1881年2月に初めてこの地を訪れ、兎狩りを観覧しました。その後も複数回行幸し、富澤家住宅で昼食をとりました。

明治天皇崩御後、この地は自然公園として整備される計画が進められ、京王電鉄の協力も得て観光開発が進められました。1930年には、明治天皇の騎馬像を安置する多摩聖蹟記念館が建設されました。1933年には、対鴎荘と富澤家住宅が国の史跡に指定されましたが、戦後、指定は解除されました。対鴎荘は後に取り壊され、富澤家住宅は多摩中央公園に移築・復元されました。多摩聖蹟記念館は、その後「旧多摩聖蹟記念館」として、地域の人々の憩いの場となっています。

きみまち阪と初雁の御歌

秋田県能代市二ツ井町にあるきみまち阪は、明治天皇が1881年に巡幸した際に命名されました。現地の言い伝えでは、天皇がこの地で皇后からの和歌を受け取ったことが名前の由来とされていますが、史実では、この地の難所を越えたことを記念して「徯后阪（きみまちざか）」と名付けられました。また、きみまち阪の歌碑に刻まれた「大宮の うちにありても ～」の御歌は、当地への行幸の3年前、天皇が北陸を巡幸していたころに皇后が詠んだもので、きみまち阪とは直接的な関係はありません。この御歌は、初雁の御歌として知られ、皇后が巡幸中の天皇を偲ぶ様子を描いたものです。

第1回陸海軍聯合大演習統監地

愛知県半田市にある雁宿公園は、1890年に明治天皇が陸海軍聯合大演習を統監した地です。この演習では、天皇は雨の中、自ら馬を走らせて部隊を激励しました。半田大本営は、大富豪の小栗富次郎の邸宅に置かれました。また、乙川白山公園にも、明治天皇の統監を記念する碑が建てられています。これらの碑や建物は、戦後指定解除されましたが、地域の人々によって大切に保存されています。

各地に残る聖蹟公園の例

現在も、明治天皇の足跡を記念する公園が各地に残されています。

聖蹟公園（東京都品川区）：明治天皇が東幸した際に行在所となった場所。
聖蹟蒲田梅屋敷公園（東京都大田区）：明治天皇が何度も訪れた梅の名所。
明治天皇記念碑公園（茨城県牛久市）：明治天皇が大演習を観戦した場所。
行在所公園（群馬県高崎市）：明治天皇が行在所として使用した建物。
御幸公園（神奈川県川崎市）：明治天皇が梅林を観賞した場所。
塩嶺御野立公園（長野県岡谷市）：明治天皇が立ち寄った塩尻峠にある。
御野立公園（新潟県柏崎市）: 明治天皇が北陸巡幸の際に立ち寄った場所。
明治天皇御休所公園（石川県能美郡）：明治天皇が休憩した茶屋があった場所。
* おあがり場公園（広島県廿日市市）：明治天皇が宮島参拝後に上陸した場所。

これらの公園は、明治天皇の足跡を今に伝え、地域の人々の憩いの場となっています。

まとめ

明治天皇聖蹟は、明治天皇の足跡を辿る上で重要な場所であり、日本の近代史を語る上で欠かせないものです。これらの史跡は、戦後占領下で一度はその指定を解除されましたが、現在でも地域の人々によって大切に保存され、その歴史を伝えています。明治天皇聖蹟を訪れることは、近代日本の歴史と文化を理解する上で、貴重な経験となるでしょう。

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