吉備津丸

吉備津丸（きびつまる）

吉備津丸は、日本陸軍が1943年末に日本郵船の名義で建造した揚陸艦です。この艦は、上陸用舟艇の母艦としての機能を持ち、特に軍事的用途のために設計されたものでした。太平洋戦争において、主にフィリピンなどへの部隊輸送の役割を果たしましたが、1945年8月7日、瀬戸内海での機雷接触により復旧不可能な状態となり、最終的には放棄されました。

建造の背景

日本陸軍は1934年に建造した「神州丸」の成功をもとに、同様の陸軍特種船を増産する計画を立てました。しかし経済的な制約から、大型船を平時から維持することは難しく、民間海運会社に補助金を贈与し、民営という形で建造を進めることになりました。このように、民間企業でありながら実質的には軍の指導下にあり、設計や運用もすべて陸軍が主導しました。この一環として日本郵船が発注し、日立造船因島造船所にて1943年12月に「吉備津丸」が竣工されました。

艦名は、神武東征の際の揚陸地点である吉備津神社に由来し、陸軍特種船の特徴を示しています。命名された当初は「陸前丸」とする予定でしたが、当時の首相が改名を命じた結果、吉備津丸と呼ばれることになったのです。

船体の設計と特徴

「吉備津丸」は、基本的に甲型に属し、外見は商船に似せてありますが、上陸用舟艇を収納するために特化した構造を持っています。船体は全通甲板式で、船尾には急速発進用のハッチが設けられています。内装は兵員居住区に配慮され、舷窓が多いのが特徴です。

武装面に関しても、艦は高射砲を装備し、場合によっては船舶砲兵を搭載することが可能でした。1944年末には、多くの対空兵装が施され、潜水艦対策としてソナーも搭載されるなど、戦局に対応した装備を配備していました。また、他の同型船が存在しない中で、いくつかの兄弟艦はあるものの、それぞれ設計や搭載機関に違いがあります。

運用と戦歴

太平洋戦争の際、吉備津丸はすぐに陸軍に徴用され、多数の輸送任務を果たしました。1945年2月までには、何度かの航海を経て、多くの兵員や物資を安全に送ることに成功し、激しい攻撃の中でも大きな損害を受けることはありませんでした。

特筆すべきは，1944年5月と8月の航海であり、特に8月に行われた任務では他の船舶と共に航行しながらも、機関故障により難を逃れることができました。このように、厳しい状況においても吉備津丸は無事であることが多かったですが、経験した攻撃や艦隊の壊滅を逃れたのは偶然の要素も大きいかもしれません。

1944年12月には、ルソン島戦闘に向けて再び輸送任務を遂行しました。アメリカ陸軍からの激しい空襲を受け、辛うじて目的地に到達したものの、その後の航空攻撃に対しても自身の武器で応戦を試みました。このとき、他の艦が撃沈される中、「吉備津丸」は生還し、敵の攻撃を耐えしのぐ成果を上げました。

終焉

1945年8月に日本へ帰還後、神戸での修理中に浸水事故が発生し、その後8月7日には機雷に接触し、最終的には放棄されました。幸いなことに、人的被害は最小限に抑えられ、終戦後の1947年に解体されるまでの歴史が綴られました。吉備津丸は、その独特の背景と運用歴から、戦艦ファンや歴史研究者にとって興味深い存在となっています。

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