吉原市

吉原市（よしわらし）は、日本の自治体として、かつて静岡県の東部に存在していました。この市は1966年（昭和41年）11月1日、当時の（旧）富士市および富士郡鷹岡町と合併したことによりその歴史に幕を閉じ、現在の富士市の一部となりました。

概要

吉原の地は、江戸時代に主要街道の一つである東海道の宿場町、吉原宿が置かれていたことで広く知られています。この吉原宿は、開宿当初は現在のJR吉原駅周辺にあたる元吉原の地にありましたが、1639年と1680年に立て続けに発生した高潮の甚大な被害を受け、現在の富士市依田原付近、そして最終的には吉原本町周辺へと、二度にわたり移転を余儀なくされるという歴史を持ちます。

宿場の移転に伴い、東海道のルートは大きく迂回する形となりました。これにより、江戸から京都方面へ向かう旅人にとって、それまで道の右手に望めた富士山が、ここでは左手に見えるという珍しい景観が生まれました。この情景は「左富士」として広く知られるようになり、多くの旅人に親しまれる景勝地となりました。かつて歌川広重の浮世絵にも描かれたように美しい松並木が街道沿いに続いていましたが、現代ではその面影を残す一本の松が立つのみとなっています。

歴史

近代に入り、町村制が施行された1889年（明治22年）4月1日、吉原宿は富士郡吉原町（初代）へと改称しました。その後、周辺自治体との合併を重ねてその範囲を広げていきます。1940年（昭和15年）4月1日には富士郡島田村を、翌1941年（昭和16年）4月3日には富士郡伝法村をそれぞれ編入しました。1942年（昭和17年）6月14日には富士郡今泉村と合併し、新たな吉原町（2代目）が誕生しました。

そして1948年（昭和23年）4月1日、市制が施行され、吉原町は吉原市（初代）となりました。その後も周辺自治体との統合は続き、1955年（昭和30年）2月11日には富士郡元吉原村、須津村、吉永村、原田村と合併し、より広い範囲を管轄する2代目の吉原市となりました。同年4月1日には富士郡大淵村を、さらに翌1956年（昭和31年）4月1日には駿東郡原町のうち船津・西船津・境といった地域を編入するなど、市域の拡大を進めました。

市としての発展を示す出来事として、1957年（昭和32年）10月には吉原市体育館が完成し、同年開催された第12回国民体育大会の卓球競技会場となりました。この際には、当時の昭和天皇、香淳皇后の行幸啓（ぎょうこうけい）もありました。また、1959年（昭和34年）1月には、市民の文化活動や交流の拠点となる吉原市民会館がオープンしています。

市の行政は歴代の市長によって担われましたが、最終的に1966年（昭和41年）11月1日、吉原市はその長い歴史に区切りをつけ、（旧）富士市および富士郡鷹岡町との合併により、新しい富士市が誕生しました。

文化・スポーツ・ゆかりの人物

かつて吉原市内には、日本製紙の前身にあたる大昭和製紙の富士工場を拠点に活動していた社会人野球チーム、大昭和製紙硬式野球部がありました。

また、吉原の地にゆかりのある著名人も輩出しています。

堀内半三郎：吉原宿出身で、貴族院の多額納税者議員を務めました。
いかりや長介：戦時中に旧原田村（現在の富士市東滝川町付近）へ疎開していました。
* 戸塚洋二：物理学者であり、後に富士市名誉市民の第一号となりました。

このように、吉原市は東海道の宿場町としての歴史を礎に発展し、近代以降も周辺地域の中心として歩みを進めましたが、合併によりその名は行政区画としては姿を消しました。しかし、その歴史や文化は現在の富士市に引き継がれています。

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