吉橋徳三郎

吉橋徳三郎：騎兵の意地を貫いた軍人

吉橋徳三郎（1871年1月3日 - 1920年8月5日）は、日本の陸軍軍人であり、最終階級は陸軍少将です。陸軍士官学校と陸軍大学校を卒業し、騎兵科に所属しました。日清戦争、日露戦争に従軍し、その功績により勲章を授与されています。第一次世界大戦後、日本陸軍内で騎兵のあり方をめぐる論争が起こった際、騎兵科を代表して乗馬戦闘の存続を強く主張しましたが、その論争の末に自決するという悲劇的な最期を遂げました。

生涯

吉橋徳三郎は、1871年に生まれました。陸軍士官学校に士官候補生2期として入校し、1892年に卒業。日清戦争では、騎兵第6大隊の小隊長として従軍し、功五級金鵄勲章を授与されました。その後、陸軍大学校を卒業し、日露戦争では少佐として第3師団作戦主任参謀を務め、その功績により功三級金鵄勲章を受けています。

日露戦争後は、第7師団参謀長、陸軍[[騎兵学校]]長などを歴任し、1916年8月18日に陸軍少将に昇進、騎兵第4旅団長に就任しました。この間、着実に軍人としてのキャリアを積み重ねていきました。

騎兵論争と自決

吉橋の生涯を語る上で欠かせないのが、第一次世界大戦後の騎兵論争です。1919年11月、参謀本部第4部長の国司伍七少将が、機関紙『偕行社記事』に発表した論文で、火器や航空機の発達を背景に、乗馬戦闘用の騎兵は廃止すべきであると主張しました。

これに対し、吉橋は1920年1月に「“騎兵ノ将来ニ就テ”ノ所感」と題する論文を発表し、乗馬戦闘教育は維持すべきと反論しました。吉橋は、歩兵が銃剣突撃を重視するように、騎兵も乗馬戦闘を軽視すべきではないと述べ、国司少将の主張を批判しました。しかし、国司少将は同年4月の論文で吉橋の主張を「妄想」と一蹴。吉橋は再反論を試みるも、発表を断念せざるを得なくなりました。

追い詰められた吉橋は、1920年8月、国司少将の「妄評」に耐えられないとして、割腹自殺を遂げました。遺書には、名誉を重んじる武人としての強い意志が記されていました。吉橋の死は、騎兵論争に終止符を打つこととなり、1922年の騎兵操典改正では、乗馬戦闘が徒歩戦闘と並ぶ戦術として維持されました。

人物像

吉橋は、日露戦争中の参謀としての模範的な働きぶりが高く評価され、陸軍大学校の教材にも採用されるほどでした。自ら最前線に赴き、状況を把握した上で的確な指揮を執りました。また、騎兵論争における彼の主張は、必ずしも頑迷な乗馬戦主義に基づくものではありませんでした。吉橋は、騎兵操典を乗馬戦闘と徒歩戦闘の並行主義と捉え、下馬しての徒歩戦闘の有効性も認めていました。その上で、攻撃精神を養うために、乗馬戦闘を重視していました。

記念施設と栄典

愛知県豊橋市の龍拈寺には、1921年に、吉橋の後任の騎兵第4旅団長である太田黒竜亮少将らによって追悼碑が建立されました。また、吉橋は、1892年7月6日に正八位、1916年9月11日に正五位に叙されています。

親族

吉橋の妻は、陸軍中将の松井庫之助の妹であり、彼との間に二人の男子をもうけました。二人の息子もまた陸軍軍人となり、次男の吉橋戒三は、第二次世界大戦後、陸上自衛隊の陸将にまで昇進しました。また、娘婿には陸軍少将の作間喬宜がいます。さらに、ベルリン五輪に出場した馬術選手で、後に調教師となった松井麻之助は義甥にあたります。松井が騎兵科に進む際、難色を示した松井庫之助を説得したのは吉橋だったというエピソードも残っています。

著作

吉橋は、「日露戦役ニ於ケル勝敗ノ原因ヲ論ス」という論文を『偕行社記事』に発表しています。これは、彼が日露戦争での経験を通じて得た教訓や考察をまとめたもので、彼の軍人としての見識を示すものと言えるでしょう。

まとめ

吉橋徳三郎は、激動の時代を生き抜いた軍人であり、騎兵科の将校としてその職務を全うしました。騎兵論争では、自らの信念を貫き、その結果、悲劇的な最期を迎えることとなりましたが、彼の死は、その後の騎兵のあり方を決定づける重要な転換点となりました。彼の生涯は、軍人としての忠誠心、武士道精神、そして時代と戦った一人の男の姿を今に伝えています。

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