吉田新田

吉田新田

吉田新田は、現在の神奈川県横浜市中区と南区に跨る地域に位置し、江戸時代前期に吉田勘兵衛によって開墾された新田です。この地域は、大岡川と中村川、そして旧派大岡川（現在の新横浜通り）に囲まれた低地であり、かつては縄文海進によって溺れ谷となった入江でした。この入江は、大岡川の堆積によっても埋まることなく、湾口に砂洲が伸びて村落が形成されていました。入江の沿岸では、横浜村や野毛村の人々が僅かな田畑を耕作したり、塩田を開いて生活を営んでいました。

埋め立ての始まり

この入江の埋め立てに適していることに目をつけた江戸の材木商、吉田勘兵衛は、1656年に江戸幕府から埋め立てと新田開発の許可を得ました。地元の村人は広い田地を求めてこの計画に賛同し、技術面では黒田助兵衛が請け負い、開発が始まりました。

1656年9月5日、鍬入れ式が行われ工事が開始されました。まず、海水の侵入を防ぐための潮除堤が築かれました。この堤の土は、天神山（現在の日ノ出町駅裏）と中村大丸山（現在の市大病院裏）を崩して作られました。しかし、翌年の梅雨による大雨で潮除堤は崩壊し、埋め立てた土は全て流されてしまいました。

二度目の埋め立て

吉田勘兵衛は、波で崩壊しない丈夫な石の堤が必要だと考え、再度計画を練り直しました。村人は再度の埋め立てに反対しましたが、吉田の説得により再び賛同しました。2回目の埋め立ては、砂村新左衛門が技術面で請け負いました。1659年4月2日に工事が開始され、石垣は安房と伊豆から運び込まれ、土は天神山、中村大丸山、横浜村の洲干島から削り出されました。村人は完成前から新田での耕作を開始しました。

新田の完成とその後

1667年に新田が完成し、吉田勘兵衛は新田を野毛新田と名付けました。この成功は、村人の努力と神仏の加護によるものとして、地域の氏神として日枝神社を勧請し、常清寺を建立しました。

新田開発後、吉田勘兵衛はこの地に家を建て、その子孫が11代にわたり住み続けました。1669年、4代将軍徳川家綱は、吉田の功績を称えて新田名を吉田新田と改称し、吉田に苗字帯刀を許しました。1674年には公式の検地が行われ、新田村となりました。

市街地化

吉田新田は、浜手から数えて七ツ目まで区画されていました。1870年には、町屋が整備された地域に長者町と福富町の二町が誕生しました。1873年には、南一ツ目にあった遊水池（沼地）も埋め立てられ、寿町を含む7つの町が新たに起立しました。同時期に他の耕地も埋め立てられ、1874年までには伊勢佐木町を含む複数の町が起立し、市街地化が急速に進みました。1878年には、市街地化した南三ツ目と北四ツ目が横浜区に編入され、1880年には高島町遊廓が南三ツ目に移転し、後の永真歓楽街が形成されました。残りの地区は、1889年に久良岐郡戸太村大字吉田新田となり、1901年に横浜市に編入され、南吉田町が起立しました。

現在

1927年には、吉田新田の全域が中区に編入されました。1928年に町界丁目地番整理事業が行われ、南吉田町から数町が分立してほぼ現在の町割りとなりました。1944年には、寿警察署管内の地区が南区に分割編入され、現在に至っています。

吉田新田の開発は、横浜の歴史において非常に重要な出来事であり、今日の横浜の都市構造を理解する上で欠かせない要素です。

参考資料

『横浜の歴史』横浜市教育委員会
「吉田新田」『新編武蔵風土記稿』 巻ノ78久良岐郡ノ6、内務省地理局、1884年6月。
* 吉田新田の開発から現在の横浜の姿になるまで 八聖殿郷土資料館

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