吉田洋一
吉田 洋一（よしだ よういち）は、明治31年（1898年）7月11日に生まれ、平成元年（1989年）8月30日に逝去した日本の数学者です。教育者として北海道帝国大学や立教大学で教鞭を執り、立教大学からは名誉教授の称号を受けました。また、学術的な業績だけでなく、随筆家や俳人としても幅広い才能を発揮した人物です。
東京に生まれた吉田は、大正12年（1923年）に東京帝国大学理学部数学科を卒業後、第一高等学校の教授となります。その後、母校である東京帝国大学の助教授を務めました。北海道大学理学部数学科の開設準備のため、彼はフランスへ留学し、帰国後の昭和5年（1930年）に北海道帝国大学の教授に就任します。戦後、昭和24年（1949年）には立教大学理学部数学科の教授に迎えられ、昭和39年（1964年）3月に定年退職するまでその職にありました。退職時には立教大学名誉教授の称号が贈られています。その後も研究と教育への情熱は衰えず、昭和40年（1965年）から昭和44年（1969年）にかけて埼玉大学の教授として教壇に立ちました。
数学者としての吉田の功績は、特に北海道大学における理学部数学科の創設に尽力したことにあります。彼の貢献により、一時期は「数学を学ぶなら北大へ」と言われるほど、同大学の数学科は高い評価を得ました。
また、数学教育の分野においても、彼は多大な足跡を残しています。昭和14年（1939年）に出版された岩波新書『零の発見』は、数学の入門書として多くの読者に親しまれ、吉田の名を広く知らしめるきっかけとなりました。この本は現在でも読まれ続けていますが、ゼロや小数の歴史に関する記述には、執筆当時の日本における理解に基づく不正確な点が多く含まれています。例えば、ゼロという記号を最初に使ったのはインド人であると記されていますが、ゼロの概念や空位を表現する記数法はインド以前に中国などでも用いられていました。また、小数の使用がヨーロッパで16世紀に始まったと書かれている点も、中国では紀元前から使用されており、ヨーロッパの数学者が中国から学んだ可能性が指摘されるなど、現在の歴史研究の成果とは隔たりがあります。しかし、当時の数学啓蒙書としては画期的な著作であったと言えるでしょう。
一方、戦前に執筆された岩波全書『函数論』は、細部にまで気を配った構成が後の数学書の模範となったと評価されています。また、培風館から出版された『微分積分学序説』は理論的な基礎を丁寧に解説し、『微分積分学』は理工系大学における微分積分学の決定版とも称されました。彼は「新数学シリーズ」（培風館）の監修も務め、同シリーズの書籍は多くの大学などで教科書として採用されました。教育への独自の配慮として、自身の著作の練習問題の指示文に、「〜せよ」「〜しなさい」といった命令形ではなく、「〜する」という表現を用いたことでも知られています。
学術分野以外では、随筆家や俳人としても活発に活動しました。代表的な随筆集に『白林帖』『数学の影絵』『数学の広場』『数と人生』『歳月』などがあります。特に『数学の影絵』は、昭和27年（1952年）に第1回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しています。
家族としては、息子の吉田夏彦は哲学者として、娘の赤冬子は翻訳家として知られ、数学者の赤摂也と結婚しました。
『実変数函数論概要』共立社書店、1934年
『函数論』岩波全書、1938年（改版あり）
『零の発見』岩波新書、1939年（改版あり）
『白林帖』甲鳥書林、1943年
『微分積分学序説』培風館、1949年
『人間算術』角川書店、1950年
『数学の影絵』東和社、1952年（河出文庫版あり）、角川選書版（増訂版）1969年（ちくま学芸文庫版あり）
『一対一』弘文堂〈アテネ文庫〉、1952年
『初等数学辞典』弘文堂〈アテネ文庫〉、1954年
『微分積分学』培風館、1955年（ちくま学芸文庫版あり）
『数学あ・ら・かると』学生社新書、1956年
『点集合論入門』培風館〈新数学シリーズ〉、1960年
『ルベグ積分入門』培風館〈新数学シリーズ〉、1965年（ちくま学芸文庫版あり）
『数学者の眼 現代を生きるヒント』講談社現代新書、1965年
『数と人生』新学社文庫、1969年
『数学の広場』学生社〈科学随筆文庫〉、1977年
『歳月』岩波書店、1984年
『聞かれるままに』私家版、2001年
吉田洋一 編『数学辞典』弘文堂〈アテネ文庫〉、1953年
『数学序説』赤摂也と共著、培風館、1954年（改訂版あり、ちくま学芸文庫版あり）
『世論調査』西平重喜と共著、岩波新書、1956年
『数表』吉田正夫と共編、培風館〈新数学シリーズ〉、1958年
『代数および幾何 基礎課程』河野伊三郎と共著、培風館、1958年
『数学の広場』矢野健太郎と共著、学生社、1961年
『数学概論 大学教養』村田全と共著、同文書院、1961年
矢野健太郎 編『私の数学勉強法』（寄稿）、ダイヤモンド社、1965年（サイエンスブックス版あり）
中谷宇吉郎・緒方富雄編『科学随筆全集』（寄稿）、学生社、1966年
田島一郎編『数学に強くなる法』（寄稿）、ダイヤモンド社、1966年
アンリ・ポアンカレ『科学と方法』岩波書店、1926年（岩波文庫版あり）
ロナルド・ミーク『イギリス古典経済学』未來社〈社会科学ゼミナール〉、1956年
R.L.ワイルダー『数学基礎論序説』培風館、1969年
アンリ・ポアンカレ『科学の価値』岩波文庫、1977年
東京に生まれた吉田は、大正12年（1923年）に東京帝国大学理学部数学科を卒業後、第一高等学校の教授となります。その後、母校である東京帝国大学の助教授を務めました。北海道大学理学部数学科の開設準備のため、彼はフランスへ留学し、帰国後の昭和5年（1930年）に北海道帝国大学の教授に就任します。戦後、昭和24年（1949年）には立教大学理学部数学科の教授に迎えられ、昭和39年（1964年）3月に定年退職するまでその職にありました。退職時には立教大学名誉教授の称号が贈られています。その後も研究と教育への情熱は衰えず、昭和40年（1965年）から昭和44年（1969年）にかけて埼玉大学の教授として教壇に立ちました。
数学者としての吉田の功績は、特に北海道大学における理学部数学科の創設に尽力したことにあります。彼の貢献により、一時期は「数学を学ぶなら北大へ」と言われるほど、同大学の数学科は高い評価を得ました。
また、数学教育の分野においても、彼は多大な足跡を残しています。昭和14年（1939年）に出版された岩波新書『零の発見』は、数学の入門書として多くの読者に親しまれ、吉田の名を広く知らしめるきっかけとなりました。この本は現在でも読まれ続けていますが、ゼロや小数の歴史に関する記述には、執筆当時の日本における理解に基づく不正確な点が多く含まれています。例えば、ゼロという記号を最初に使ったのはインド人であると記されていますが、ゼロの概念や空位を表現する記数法はインド以前に中国などでも用いられていました。また、小数の使用がヨーロッパで16世紀に始まったと書かれている点も、中国では紀元前から使用されており、ヨーロッパの数学者が中国から学んだ可能性が指摘されるなど、現在の歴史研究の成果とは隔たりがあります。しかし、当時の数学啓蒙書としては画期的な著作であったと言えるでしょう。
一方、戦前に執筆された岩波全書『函数論』は、細部にまで気を配った構成が後の数学書の模範となったと評価されています。また、培風館から出版された『微分積分学序説』は理論的な基礎を丁寧に解説し、『微分積分学』は理工系大学における微分積分学の決定版とも称されました。彼は「新数学シリーズ」（培風館）の監修も務め、同シリーズの書籍は多くの大学などで教科書として採用されました。教育への独自の配慮として、自身の著作の練習問題の指示文に、「〜せよ」「〜しなさい」といった命令形ではなく、「〜する」という表現を用いたことでも知られています。
学術分野以外では、随筆家や俳人としても活発に活動しました。代表的な随筆集に『白林帖』『数学の影絵』『数学の広場』『数と人生』『歳月』などがあります。特に『数学の影絵』は、昭和27年（1952年）に第1回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しています。
家族としては、息子の吉田夏彦は哲学者として、娘の赤冬子は翻訳家として知られ、数学者の赤摂也と結婚しました。
主な著作
単著
『実変数函数論概要』共立社書店、1934年
『函数論』岩波全書、1938年（改版あり）
『零の発見』岩波新書、1939年（改版あり）
『白林帖』甲鳥書林、1943年
『微分積分学序説』培風館、1949年
『人間算術』角川書店、1950年
『数学の影絵』東和社、1952年（河出文庫版あり）、角川選書版（増訂版）1969年（ちくま学芸文庫版あり）
『一対一』弘文堂〈アテネ文庫〉、1952年
『初等数学辞典』弘文堂〈アテネ文庫〉、1954年
『微分積分学』培風館、1955年（ちくま学芸文庫版あり）
『数学あ・ら・かると』学生社新書、1956年
『点集合論入門』培風館〈新数学シリーズ〉、1960年
『ルベグ積分入門』培風館〈新数学シリーズ〉、1965年（ちくま学芸文庫版あり）
『数学者の眼 現代を生きるヒント』講談社現代新書、1965年
『数と人生』新学社文庫、1969年
『数学の広場』学生社〈科学随筆文庫〉、1977年
『歳月』岩波書店、1984年
『聞かれるままに』私家版、2001年
共著・編著・共編著
吉田洋一 編『数学辞典』弘文堂〈アテネ文庫〉、1953年
『数学序説』赤摂也と共著、培風館、1954年（改訂版あり、ちくま学芸文庫版あり）
『世論調査』西平重喜と共著、岩波新書、1956年
『数表』吉田正夫と共編、培風館〈新数学シリーズ〉、1958年
『代数および幾何 基礎課程』河野伊三郎と共著、培風館、1958年
『数学の広場』矢野健太郎と共著、学生社、1961年
『数学概論 大学教養』村田全と共著、同文書院、1961年
矢野健太郎 編『私の数学勉強法』（寄稿）、ダイヤモンド社、1965年（サイエンスブックス版あり）
中谷宇吉郎・緒方富雄編『科学随筆全集』（寄稿）、学生社、1966年
田島一郎編『数学に強くなる法』（寄稿）、ダイヤモンド社、1966年
翻訳
アンリ・ポアンカレ『科学と方法』岩波書店、1926年（岩波文庫版あり）
ロナルド・ミーク『イギリス古典経済学』未來社〈社会科学ゼミナール〉、1956年
R.L.ワイルダー『数学基礎論序説』培風館、1969年
アンリ・ポアンカレ『科学の価値』岩波文庫、1977年
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