吉祥寺マイナー

吉祥寺マイナー：伝説のライブハウス

吉祥寺マイナーは、1978年3月7日から1980年9月28日まで、東京都武蔵野市吉祥寺に存在した伝説的なライブハウス。アンダーグラウンドシーンの象徴として、「マイナー」「minor」の名で知られていました。店長は、ガセネタの佐藤隆史が務めていました。

ジャズ喫茶からカオスな空間へ

店長の佐藤隆史は、ジャズピアニスト山下洋輔に私淑し、ジャズ喫茶を始めることを決意。当初は、コンテンポラリー・[[ジャズ]]を中心としたオーソドックスなジャズ喫茶としてオープンしました。しかし、川田良の勧めで週末にロックコンサートを開催するようになると、状況は一変します。

山崎春美、灰野敬二、工藤冬里、竹田賢一、白石民夫といったロックミュージシャンたちが頻繁に出入りするようになり、パンク、ニューウェイブ、ノイズ、フリージャズ、即興演奏など、ジャンルにとらわれない実験的な音楽が繰り広げられる空間へと変貌を遂げていきました。演奏の邪魔になるテーブルや椅子は撤去され、壁の絵画や内装も取り壊され、次第にジャズ喫茶としての面影は失われていきました。

伝説のエピソード

マイナーでは、数々の伝説的なエピソードが生まれました。灰野敬二が練習中に警察に通報されたり、小西ヤスが天井に鶏を吊るして焼きそばを焼いたり、フリクションのラピスが冷蔵庫にマイクを突っ込んで歌ったり…その混沌とした様子は、多くの人々の記憶に刻まれています。店内は荒廃し、床板は剥がされ、厨房も破壊され、最終的には打ちっ放しのコンクリートのみが残る殺風景な空間となりました。

客足も遠のき、1日の平均客数はわずか7人程度。しかし、そのアンダーグラウンドな雰囲気こそが、多くのアーティストたちを惹きつけました。江戸アケミのじゃがたらや、遠藤ミチロウのザ・スターリンなど、過激なパフォーマンスで知られるバンドも出演するようになり、マイナーは日本のパンク・ロック黎明期のカオスを象徴する場所として、東京地下音楽の総本山的な存在となっていきました。

佐藤隆史とその後

店長の佐藤隆史自身も、ワーストノイズやガセネタのメンバーとして演奏活動を行っていました。また、「うごめく・気配・きず」というシリーズコンサートを主催し、多くのバンドを支援しました。しかし、度重なる赤字や騒音問題、周囲からの圧力などから、1980年9月28日にマイナーは閉店。その後、佐藤はインディーズレーベル「ピナコテカレコード」を立ち上げ、灰野敬二やタコのアルバムをリリースしましたが、部落差別と障害者差別にあたる表現があったとの指摘を受け、販売停止・自主回収となりました。

同和問題などでピナコテカレコードを解散後、佐藤はプロカメラマンやパイロット免許を取得するなど、様々な分野で活躍しましたが、2010年頃に小学校の警備員になった後、消息は不明となっています。大里俊晴は、佐藤を「エキセントリックなところのまるで無い、それでいてとても不思議な人間」と評しています。佐藤やマイナーでのエピソードは、大里俊晴の伝記的小説『ガセネタの荒野』などに詳しく記されています。

日本ロック史におけるマイナーの功績

短命ながらも、吉祥寺マイナーは日本のロック史に大きな足跡を残しました。アンダーグラウンドシーンの先駆けとして、多くのアーティストに影響を与え、日本のパンク・ロック黎明期を語る上で欠かせない存在です。その伝説は、今もなお語り継がれています。

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