吉良頼康

吉良頼康（きら よりやす）

吉良頼康は、戦国時代に活躍した武将であり、武蔵吉良氏の出身です。初めは頼貞と名乗っていました。武蔵国（現在の東京都および埼玉県の一部）の世田谷城や、久良岐郡（現在の神奈川県横浜市の一部）の蒔田城を拠点としていました。そのため、「世田谷御所」や「蒔田御前」という異名で呼ばれることもありました。

生涯

1524年、相模国（現在の神奈川県）の北条氏綱が上杉朝興の江戸城を攻略すると、頼康は後北条氏に従属しました。1533年には、氏綱による鶴岡八幡宮の造営に参加し、蒔田から木材を海路で杉田へ運び、そこから5万人の人足を使って八幡宮まで運んだという記録が残っています。また、氏綱の娘を正室に迎え、1539年には安産祈願を行った記録があることから、この頃には婚姻関係にあったと考えられています。

1546年、頼康は従四位下左兵衛佐に叙位・任官されました。1548年には北条氏康から一字を賜り、頼康と改名しています。しかし、遅くとも1554年までには左兵衛佐を辞任しています。この背景には、頼康が左兵衛佐を名乗っていた時期と北条氏と古河公方家との緊張関係が重なっていることが指摘されています。北条氏康は、古河公方を排除した場合に、その代わりとなる権威として吉良氏を擁立することを考慮し、古河公方ゆかりの左兵衛佐を名乗らせたのではないかという説があります。その後、北条氏康が足利義氏を古河公方に擁立することに成功し、緊張関係が解消した時期と頼康が左兵衛佐を辞任した時期がほぼ一致していることも、この説を裏付けています。

頼康には実子がいたようですが、1560年に堀越六郎の子である氏朝を養子に迎え、翌年には家督を譲っています。そして、1562年に亡くなり、蒔田の勝国寺に葬られました。

北条氏との関係

頼康は、北条氏に従っていましたが、足利将軍家の一門という高い家格を考慮され、家臣ではなく食客として扱われました。北条氏からは諸役を免除され、吉良家独自の印判の使用も認められていました。また、氏康から一字を賜った際も、偏諱ではなく下の字を与えられたことから、特別な待遇を受けていたことがわかります。

しかし、北条氏の勢力拡大に伴い、吉良家の立場も変化していきます。弘治年間頃から、北条氏康が直接吉良家の家臣に命令を下す事例が見られるようになり、次第に吉良家の家臣団の解体が進行していきました。頼康の跡を継いだ氏朝の代には、吉良家自体も北条家の家臣として組み込まれ、軍役などに応じるようになります。ただし、吉良氏家臣団は、完全に北条氏の家臣となったわけではなく、両属的な関係を維持していたという異論もあります。

頼康が養子に迎えた吉良氏朝は、遠江今川氏の堀越六郎と崎姫（北条氏綱の娘）の子であり、頼康の妻も氏綱の娘（崎姫の姉妹）であったため、頼康にとって氏朝は義理の甥にあたります。この養子縁組について、荻野三七郎は「北条氏が吉良氏に強制介入し換骨奪胎していった」と評価し、黒田基樹は「北条氏が吉良氏の権威を克服し、吉良氏の所領と家臣を北条氏領国に編入していった」と評価しています。一方、谷口雄太は、父方が吉良氏の支族である遠江今川氏＝堀越氏であることを重視し、「足利氏に連なる権威・貴種の温存を図るとともに、吉良氏が関東に広く持った地域的なネットワークや武家故実を始めとする文化・儀礼の維持・継承が期待されていた」と評価しています。

吉良頼康は、戦国時代の激動の中で、名門の家柄を維持しながらも、新しい勢力である北条氏との関係を巧みに築き、その後の吉良氏の歴史に大きな影響を与えた人物でした。

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