同人AV

同人AVとは

同人AVとは、AV人権倫理機構の認証を受けていない個人または同人サークルが制作するアダルトビデオのことです。商業AV（AV人権倫理機構から認証を受けているAVメーカー制作の適正AV）とは対照的な存在として位置づけられます。個人撮影AVまたは個人AV撮影（個人撮影の一種）とも呼ばれます。

歴史

同人AVは、文脈によっては裏ビデオと同一視されることもありますが、出演者契約やモザイク処理などを経て合法的に制作されるものも存在し、一概に違法なものばかりではありません。ここでは、その歴史を紐解いていきましょう。

前史

アダルトビデオ誕生とほぼ同時期に、同人AVの原型となる自主制作ビデオが登場しました。当初はSMなどのフェチ作品が中心で、1980年代後半にはマニアショップを通じて委託制作・販売が行われました。専門誌への広告掲載も行われていました。
1990年代初頭にはブルセラショップが登場し、制服を扱った作品や、裏ビデオに近い援助交際ビデオが販売されました。

1990年代に入るとインディーズビデオブームが起こり、日本ビデオ倫理協会を通さない作品が専門店で販売され、モザイクの甘さや過激な内容で人気を集めました。この流れから、後のソフト・オン・デマンドや北都系と呼ばれるアウトビジョングループが台頭し、メジャー系ビデ倫メーカーを凌駕するほどの勢いを見せました。

同人AVの誕生

2001年以降、コミックマーケットで同人AVを販売するサークルが現れ始めました。当初は審査を通過するため、ヌードや直接的な性描写は避けられていました。
2007年には、制作サークル「ピンキーWEB」が自分たちの作品を分類するために「同人AV」「同人コスプレAV」という言葉を作り出しました。
2010年代になると、ダウンロード販売が主流となり、即売会では販売できない作品の流通が増加しました。また、同人AV専門の販売イベント「コスホリック」がスタートしました。

適正AVとの明確化以降

2011年に知的財産振興協会が結成され、2017年にはAV人権倫理機構が設立されました。これにより、同機構所属会社のAV女優が所属するプロダクションの業界団体「日本プロダクション協会」が発足し、認定事務所所属の女優のみが適正AVに出演できるという状況になりました。

アダルトメディア研究家の安田理央氏は、表現や内容の自主規制、コストカットなどに苦しむ適正アダルトビデオ業界から人材やファンが同人AVに流れていると指摘し、これらを「かつてのインディーズエロの血を継ぐ勢力」と分析しています。

本来、同人AVは「商業AVに飽き足らない人々が始めた趣味性の強い、独立性の高いもの」でしたが、FC2などで性器や性交を見せる個人撮影グループが「同人AV」を名乗り始めました。この新しい呼称がモデル募集に有利に働いたとも言われています。現在では、本来の意味での同人AVと、個人撮影グループが混在する状況が続いています。

制作者

同人AVの制作者には、成人向け雑誌の付録DVDを編集していたdec（同人サークル「コスプレ一本勝負」代表）のように商業メディアから転身した人や、商業アダルトビデオ制作の窮屈さから転向した人が多く見られます。また、自身が被写体となることで女優代を削減できるため、女性による制作も少なくありません。V&Rプランニングの安達かおる氏は、同人AVの制作理由として、従来のAVの流れではなくコスプレの流れから「好きなものを撮っていたらたどり着いた」というケースが多いと解説しています。近年では、商業AVに出演するAV女優が同人AVに参入するケースも見られます。

配信サイトDL.Getchu.comの登録サークル数は2019年現在2000サークルに達し、2012年と比較して製作数が8倍に増加しています。安達氏は、同人AVの将来性について「今後、メジャーになっていくと感じているが、大きくなるにつれて既存のAVメーカーと同じ問題を抱えるようになる」と懸念しています。

同人AVは、国内法の範囲内で制作されており、違法摘発を避けるために演出上の工夫や最低限のモザイク処理が施されています。多くのダウンロードサイトも知的財産振興協会の基準を遵守していますが、中には法のグレーゾーンを突く作品も存在すると言われています。

批判と課題

AV出演被害防止・救済法以前は「趣味の範囲で制作されたもの」という意味で使用されることが多かった同人AVですが、同法案以降は「適正AV以外」という意味で、海外配信の無修正動画制作者を含む場合が多くなっています。

AV女優の月島さくら氏は、販売を目的としない「個撮」名義のオファーは個人売春にあたる犯罪であり、本来のAV（適正AV）とは全く異なると指摘しています。

法学者河合幹雄教授は、インターネットや撮影・編集機材の普及により誰でも制作できるようになった一方で、AV新法によって“地下化”が進んでいると指摘し、個人制作の同人AVや違法サイトこそ規制すべきだと主張しています。

また、AV新法の議論開始後から、過度な規制強化により適正AV出演女性が違法AV（個人撮影、同人AV、売春行為のオプション撮影）に流れる可能性が指摘されています。

ライターの中村淳彦氏は、デジタルネイティブ世代の女性が効率的に稼ぐために同人AVを選択していると指摘し、適正AVの締め付け以降は、かつての企画女優に相当する女性たちが同人AVに流れてきていると述べています。

配信・販売プラットフォーム

安田理央氏によると、2022年時点で日本で代表的な同人AVサイトはDL.Getchu.com、ファンティア、FC2の3つです。

DL.Getchu.comはコスプレ系動画が多く、ファンティアは同人クリエイターの支援プラットフォームとして利用されています。FC2は広義の同人AV最大の販売サイトですが、個人撮影が多く、海外サーバーのため無修正動画も多いという問題点があります。

これらのプラットフォームでは、違法な内容や投稿者逮捕事件も発生しており、自主規制や対策が進められています。

出演者

同人AVの出演女性は、同人モデルまたは同人女優と呼ばれます。初期は知り合いの女性が出演していましたが、2016年頃からは表AV関係者が多く関わるようになりました。適正AV化により、事務所に所属しないフリーの企画女優たちが同人AVに流れるようになりました。近年では、SNSを通じて業界とつながり、同人AVモデルとして活動する女性が増加しています。また、同人AVでの評判を受けて表AVに出演するケースも見られます。

同人モデルのSNS上では「撮影がなくても可」といった内容も見られ、同人モデルという言葉の意味も変化し始めています。

同人AVは、多様な表現や新しい才能が生まれる可能性を秘めている一方で、法規制や倫理的な問題、出演者の権利保護など、多くの課題を抱えています。今後の発展のためには、健全な環境整備が不可欠です。

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