同時代人

『同時代人』：ロシア文学と革命運動の交差点

『同時代人』（露: Современник）は、19世紀ロシアにおいて重要な役割を果たした雑誌です。その歴史は、創刊から廃刊まで、ロシア文学の発展と社会変革運動の隆盛を映し出す鏡のような存在でした。

創刊：プーシキンの挑戦

1836年、詩人アレクサンドル・プーシキンは、サンクトペテルブルクで『同時代人』を創刊しました。当時のロシアは、皇帝ニコライ1世の圧政下で、言論統制が厳しく、文壇は皇帝を支持する勢力が支配していました。プーシキンは、そのような状況に対抗し、自身の文学活動の場を確保すると同時に、経済的な苦境を脱するためにも、この雑誌を創刊したのです。

季刊誌としてスタートした『同時代人』には、プーシキン自身の作品「青銅の騎士」や「大尉の娘」をはじめ、ゴーゴリの「鼻」「肖像画」など、当時の第一級の文学者たちの作品が掲載されました。しかし、その内容は一般受けするものではなく、期待されたほどの売れ行きには結びつきませんでした。1837年にプーシキンが不慮の死を遂げた後、雑誌の運営は友人たちによって引き継がれました。

発展：ネクラーソフによる刷新

1846年、雑誌は詩人ニコライ・ネクラーソフと小説家イワン・パナーエフに買い取られ、新たな時代を迎えます。ネクラーソフは卓越した事業家であり、編集者でもありました。彼の才能によって、『同時代人』は大きく発展していきます。同年には、ロシア文学における文芸批評を確立したヴィッサリオン・ベリンスキーを編集者として迎え、翌年からは月刊化されました。

ベリンスキーの死後も、雑誌は発展を続け、1850年代には、イワン・ツルゲーネフの「猟人日記」「ルージン」「貴族の巣」、イワン・ゴンチャロフの「平凡物語」、ドミトリー・グリゴローヴィチの「不幸者アントン」、アレクサンドル・ゲルツェンの「誰の罪」「ドクトル・クルーポフ」、そして、当時無名だったレフ・トルストイの「幼年時代」「少年時代」「青年時代」など、ロシア文学史に残る傑作が次々と掲載されました。これらの作品は、当時のロシア社会の矛盾や問題を鋭く描き出し、読者に大きな衝撃を与えました。

クリミア戦争の敗北をきっかけに、農奴制などのロシアの社会構造に対する批判が高まる中、『同時代人』は、農民を題材にした作品を掲載することで、世論形成に大きく貢献しました。

対立と終焉：政治的激化と弾圧

1850年代半ばには、若い世代の批評家ニコライ・チェルヌイシェフスキーとニコライ・ドブロリューボフが加わり、雑誌はさらに政治色を強めていきます。彼らは政治、経済、哲学、文学など多岐にわたる分野で、革命運動を指導する論文を発表し、多くの支持を集めました。しかし、彼らの急進的な思想は、ツルゲーネフら貴族出身の穏健な作家たちとの対立を生み、1860年にはツルゲーネフが雑誌を去るという事態を招きました。

それでも、雑誌の発行部数は1861年にピークを迎えましたが、翌1862年には政府によって発行停止処分を受け、チェルヌイシェフスキーが逮捕・流刑に処されました。1863年に再刊された後、急進派の小説家ミハイル・サルトゥイコフ・シチェドリンが加わり、チェルヌイシェフスキーの獄中作「何をなすべきか」が掲載され、革命思想を広めました。しかし、1866年の皇帝アレクサンドル2世暗殺未遂事件をきっかけに、弾圧が激化し、『同時代人』は廃刊を余儀なくされました。

影響：文学と社会運動への遺産

『同時代人』は、その短い歴史の中で、ロシア文学の発展と社会変革運動の両方に大きな足跡を残しました。掲載された作品群は文学史に名を刻み、その思想は、後の革命運動に大きな影響を与えました。

廃刊後、ネクラーソフらは『祖国の記録』を新たな活動の場とし、一方、ツルゲーネフらは『ロシア報知』で活動を続けました。しかし、『同時代人』が残した遺産は、その後も長くロシア社会に影響を与え続けました。

『同時代人』は、単なる文学雑誌としてだけでなく、時代の転換期における人々の思想と行動を記録した歴史的資料としても、その価値を失うことはありません。

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