名取

「名取（なとり）」という言葉は、日本語において複数の異なる意味で使用される多義的な表現です。その用途は古くからの伝統文化から地理、人物、さらには現代の交通手段や経済活動に至るまで、非常に広範にわたります。主な用法について、それぞれの分野ごとに詳しく解説します。

芸道における「名取」

芸道の世界では、「名取」とは、ある程度の技量を習得した門下生が、その師匠から正式に稽古の成果を認められ、その流派の芸を名乗ることを許可されること、またはそのように認められた人物を指します。この際に師匠から与えられる固有の芸名は「名取名」と呼ばれます。これは、単なる技能の証明にとどまらず、師の芸統を受け継ぎ、それを広める担い手として公に認められたことを意味し、その後の活動において重要な意義を持ちます。

地名としての「名取」

「名取」は、古代から存在する歴史的な地名であり、特に現在の宮城県中部を指す固有名詞として知られています。かつてこの地域には「名取郡」という行政区分が存在し、現在も宮城県内を流れる主要な河川の一つである「名取川」や、東北地方の中心都市である仙台市の南東に隣接する「名取市」としてその名が受け継がれています。名取市内には、JR東日本東北本線および仙台空港鉄道仙台空港線が乗り入れるターミナル駅である「名取駅」が設置されています。

宮城県以外にも、「名取」という地名は存在します。

山形県村山市
山梨県甲斐市
愛媛県西宇和郡伊方町

特に愛媛県伊方町の「名取」は、少し変わった由来を持ちます。江戸時代の初期にあたる慶長20年（1615年）、伊達秀宗が宇和島城主として入城した際、これに同行した陸奥国名取郷（現在の宮城県名取市周辺）出身の軍夫らが入植して形成された集落であると伝えられています。

人名としての「名取」

「名取」は、日本人の姓（名字）としても広く用いられており、「名執」や「名鳥」といった表記も見られます。歴史的に見ると、陸奥国名取郡を本拠とした「名取氏」が存在し、戦国時代の武将として知られる名取久吉などが著名です。この名取氏の一部は、江戸時代の甲州騒動の後、若尾氏に改姓したとも伝えられています。現代においても、日本の各界で活躍する多くの方がこの姓をお持ちです。例としては、俳優の名取裕子さん、かつてプロ野球選手だった名取礼二さんなどが挙げられます。また、近年では、インターネットを中心に活動し、人気を集めている男性シンガーソングライターの「なとり」氏も広く認知されています。

艦船名としての「なとり」または「名取」

「名取」という名称は、これまでに複数の艦船にも付けられています。

日本海軍：長良型軽巡洋艦の3番艦として建造された「名取」が存在しました。この艦名は、宮城県を流れる名取川に由来して命名されています。
海上自衛隊：最新鋭の護衛艦であるもがみ型護衛艦の9番艦として、「なとり」が就役予定です。
海上保安庁：かつて巡視船の名称として二代にわたり「なとり」が使用されていました。初代はまつうら型巡視船の4番船として1986年まで運用され、二代目はびほろ型巡視船として「くろべ」から改名されて2009年まで任務に就いていました。

企業名としての「なとり」

企業名としても「なとり」が使われています。

株式会社なとり：おつまみなどの食品製造販売を手掛ける日本の企業です。東京都に本社を構え、様々な加工食品を提供しています。創業者の名取光男氏の姓が社名の由来となっています。
ナトリ：中国の多国籍企業であるアリババグループ傘下の物流会社「ツァイニャオ（菜鳥網絡）」の日本国内における通称として用いられることがあります。これは、中国語の「菜鳥」の日本語読みに由来すると考えられます。

まとめ

このように、「名取」という言葉は、その登場する文脈によって、伝統文化における称号、地理的な場所、個人の氏名、歴史的な艦船、現代の企業といった、全く異なる事柄を指し示します。これは、日本語における言葉の多様性や、歴史、文化、経済といった様々な側面が結びついていることを示す興味深い事例と言えるでしょう。

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