向原寺

向原寺（こうげんじ）

向原寺は、奈良県高市郡明日香村に位置する浄土真宗本願寺派の寺院で、別名、広厳寺とも呼ばれています。本尊は阿弥陀如来です。

歴史

この地は、日本の仏教の黎明期において重要な役割を果たしました。『日本書紀』によれば、欽明天皇13年（552年）に百済の聖王から献上された仏像を、蘇我稲目が最初に安置した「向原の家」があったとされています。その後、この地は寺院として整備され、7世紀には推古天皇の豊浦宮や、日本最古の尼寺である豊浦寺が建立されました。

しかし、仏教の受容には反対勢力も存在しました。国内で疫病が流行した際、物部尾輿と中臣鎌子は、仏像を祀ったことが神々の怒りを買ったものとして、仏像を難波の堀江に捨て、伽藍を焼き払いました。

その後、この地には再び寺院が建立され、舒明天皇6年（634年）には豊浦寺の塔の心柱が建てられました。豊浦寺は、飛鳥時代を通じて重要な寺院として機能し、朱鳥元年（686年）には、亡き天武天皇のために、豊浦寺を含む五つの寺院で大規模な法会が行われました。

現在の向原寺周辺には、豊浦寺の遺構が残っており、発掘調査によって塔、金堂、講堂の跡が確認されています。特に、現向原寺境内から検出された講堂跡の基壇は、豊浦宮の跡に豊浦寺が建立されたという説を裏付けるものとして注目されています。

発掘調査の結果、豊浦寺の講堂は7世紀第2四半期に建立されたと推定され、その下層からは掘立柱建物の跡が確認されています。また、金堂跡と推定される場所からは乱石積の基壇が検出され、塔跡とみられる基壇も発見されています。しかし、伽藍全体の構成については、未だに解明されていない部分が多く残されています。

寺宝

向原寺には、明和9年（1772年）に近くの難波池で頭部が発見された金銅観音菩薩立像が伝わっています。この像は、後に体部と光背が補作されましたが、昭和49年（1974年）に盗難に遭いました。その後、平成22年（2010年）にオークションに出品されていたところを発見され、寺が買い戻しました。

参考資料

黒崎直『飛鳥の宮と寺』（日本史リブレット71）、山川出版社、2007
田村圓澄『飛鳥・白鳳仏教史』、吉川弘文館、1994
小澤毅「豊浦寺の調査 第133 - 9次」、『奈良文化財研究所紀要2005』、2005
『日本歴史地名大系 奈良県の地名』、平凡社、1981
* 鈴木喜博「三十六年ぶりに戻った向原寺（旧豊浦寺）の金銅観音菩薩像について」

脚注

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