吾妻連峰雪山遭難事故

吾妻連峰雪山遭難事故の概要

1994年2月、吾妻連峰で発生した山岳遭難事故は、山スキーを楽しむために訪れた7人のパーティーのうち、5人が死亡するという痛ましい結果となりました。この事故は、山岳遭難史上における重大な事例の一つとして記録されています。

事故は、山行2日目に起こりました。一行は、家形山避難小屋から滑川温泉へ向かう予定でしたが、霧ノ平への分岐点を見失い、道に迷ってしまいます。結局、避難小屋へ戻る途中で雪洞を掘ってビバークを余儀なくされました。翌日、一行は強風の中、家形山方面へ進みましたが、急斜面で動けなくなった女性メンバーの救助に手間取り、その間に他のメンバーも体力を消耗し、さらに雪洞でのビバークを強いられました。

翌朝、リーダーを含む4名が意識を失い、残りのメンバー2名が救助を求めて下山を開始。遭難から数日後、自衛隊のヘリコプターによって、5名全員の死亡が確認されました。死因は、いずれも凍死でした。

事故の詳細な経過

計画

2月11日：あづまスキー場から家形山避難小屋へ
2月12日：家形山避難小屋から滑川温泉へ
2月13日：滑川温泉から奥羽本線峠駅へ

パーティーは、30代から60代の男女7人で構成されていました。リーダーは登山経験豊富な男性でしたが、今回の山行はあくまでも個人的なものでした。メンバー全員が登山経験者であり、特にリーダーは吾妻連峰登山を13回も経験していました。

2月11日

東京駅から福島駅へ向かう際、新幹線の指定席を予約していなかったため、予定より30分遅れて福島駅に到着。さらに、スキーを積めるタクシーが見つからず、マイクロバスをチャーターするのに30分を要しました。登山口へ向かう際も、路面凍結のためバスが予定地点まで行けず、リフトも一部が運休していたため、メンバーはかなりの距離を歩くことになりました。さらに、登山者カードを提出しないまま入山してしまったことも、後の捜索活動を困難にしました。

一行は、設備の整った慶応吾妻山荘を素通りし、当初の計画通り家形山避難小屋へ向かいました。避難小屋では、宴会を夜遅くまで続けたため、疲労が蓄積した状態で翌日を迎えることになりました。また、ラジオを持っていなかったため、天気予報などの情報が得られない状況でした。

2月12日

天候は一時的に回復しましたが、これは太平洋とオホーツク海の低気圧に挟まれたことによる擬似的な好天でした。出発が遅れた上、雪が多かったため、予定より2時間以上遅れて白浜尾根に到着。午後から天候は急変し、霧ノ平への分岐点を見つけられず、道に迷ってしまいます。スキー板のシールが剥がれるなどのトラブルも発生し、体力を消耗しながら、夜になってビバークを余儀なくされました。この時点ではまだ余裕がありましたが、夜間の気温は氷点下10℃以下まで下がり、疲労も重なり、メンバーの体力は限界に近づいていました。

2月13日

猛吹雪の中、メンバーは下山を強行。約1.2km離れた家形山避難小屋へ戻ろうとしましたが、暴風のため進むことができません。女性メンバー1人が低体温症で動けなくなり、他のメンバーも次々と体調を崩してしまいました。雪洞を掘ってビバークをしましたが、リーダーがザックを紛失し、ガスストーブやヘッドランプが使えなくなるなど、トラブルが相次ぎました。

2月14日

意識があったのは男性Aと女性B、Cの3人のみ。残りの4人は低体温症で死亡していました。3人は救助を求めて下山を開始しましたが、女性Cは動けないと言い残し、その場に残ることを選びました。残ったAとBは下山を続けましたが、Aが力尽き、ビバークを余儀なくされました。同日、山仲間が捜索願を提出しましたが、登山届が提出されていなかったため、初動捜査は難航しました。夜には、身元不明だったCの家族が警察に捜索願を提出し、7人全員の身元が判明しました。

2月15日

天候は回復しましたが、強風は続いていました。自衛隊と地元の山岳会が捜索を開始。下山を続けていた2人は自力で滑川温泉に辿り着きましたが、重度の凍傷を負っていました。ヘリコプターによる捜索で、ビバーク地点が特定され、5名の遺体が収容されました。

事故の原因と背景

この遭難事故は、気象遭難に分類されます。天候判断の誤り、撤退判断の遅れ、準備不足、そして山中での判断ミスが重なり、低体温症を引き起こしたことが主な原因です。また、霧の平での道迷いも事故を深刻化させました。

不運と判断ミスによるタイムロス: 新幹線やバスの遅延、リフトの運休など、計画の段階からタイムロスが発生し、その後の行動に影響を及ぼしました。
準備不足: 事前の準備期間が不足し、天候のチェックも怠っていました。また、ラジオやツェルトなどの装備も不足していました。リーダーは、過去の経験から装備を減らすことを推奨していたことが、結果として裏目に出てしまいました。さらに、登山計画書や登山者カードを提出しなかったため、捜索開始が遅れる一因となりました。
山中での判断ミス: 疲労が蓄積しているにもかかわらず、慶応吾妻山荘での休憩や宿泊をせず、家形山避難小屋へ向かいました。また、ビバークを継続する選択肢もあったにもかかわらず、下山を強行したことも判断ミスでした。道に迷った時点で撤退を決断せず、彷徨い続けたことも体力を消耗させる要因となりました。さらに、低体温症の知識がなく、適切な処置を施さなかったことも問題でした。

まとめ

この事故は、冬山登山におけるリスク管理の重要性を改めて示しました。天候の急変、準備不足、判断ミスが重なることで、いかに危険な状況に陥るかを物語っています。この教訓を活かし、二度とこのような悲劇が繰り返されないようにすることが重要です。

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