丁朝

丁朝（ディンちょう）

丁朝（966年 - 980年）は、ベトナム北部を支配した王朝で、首都は華閭（現在のニンビン省ホアルー）に置かれました。ベトナムの歴史書では呉朝が最初の独立王朝とされますが、丁朝の時代から北ベトナムが中国の支配から真に独立したとする見方もあります。

歴史

丁朝の創始者である丁部領（ディン・ボ・リン）は、父の丁公著（ディン・コン・チュ）が呉朝に仕えていましたが、幼少期に父を亡くしました。呉朝末期の965年に、北ベトナムで十二使君の乱が起こると、丁部領は陳覧（チャン・ラム）と同盟を結び、その地位を継承することを約束されました。呉昌熾（ゴ・スオン・シー）を降伏させたことで、丁部領は北ベトナムの主導権を握り、他の使君との戦いにも勝利しました。人々は彼を「万勝王（ヴァン・タイン・ヴォン）」と称えました。

丁部領は「大勝明王」の王号を贈られ、国号を「大瞿越（ダイコヴィェト）」と定め、丁朝を開きました。呉朝の都であった大羅（ダイラ）には中国の影響が強かったため、故郷の華閭を新たな都としました。970年には、ベトナム最初の元号である「太平」を制定し、翌年には文武僧道の階品を定めました。国号と王号の制定、銅銭「太平興宝」の鋳造により、丁朝は東南アジアにおける小中華国家としての道を歩み始めました。

978年、丁部領は末子の丁項郎（ディン・ハン・ラン）を皇太子としましたが、丁部領と共に戦ってきた丁璉（ディン・リエン）はこれに不満を抱き、丁項郎を暗殺しました。この事件が979年10月の内乱を引き起こし、丁部領と丁璉は杜釈（ドー・ティック）によって暗殺されました。

丁部領の死後、唯一生存していた息子の丁璿（ディン・トアン）が6歳で即位し、黎桓（レ・ホアン）が摂政となりました。黎桓は皇太后の楊雲娥と親密になり、廷臣や政敵が挙兵しましたが失敗。一方、宋では大瞿越の政変に乗じて軍を進める動きがあり、チャンパ王国も呉日慶（ゴ・ニャット・カイン）と共同で出兵を試みましたが失敗しました。980年6月、黎桓は腹心の范巨倆（ファム・キュウ・リュオン）を大将軍に任命し、出陣の前に黎桓を皇帝に擁立することを兵士に説きました。兵士たちはこれに賛同し、丁璿は廃位され、黎桓と楊雲娥の結婚によって丁朝は滅亡し、前黎朝が成立しました。

丁璿は前黎朝成立後も中央で厚遇され、楊雲娥は黎桓の五皇后の筆頭として影響力を持ちました。また、キン族やムオン族の中には丁部領の子孫を称する家系が存在します。

都・華閭

華閭は石灰岩からなる大雲山（ダイヴァン山）を背後に持ち、城壁で繋がれていました。城内は皇帝の政務区域と民衆の居住区に分かれ、宮殿の他に官吏や兵士の生活区域、寺院などが置かれていました。丁朝では罪人に厳しい刑が課せられており、華閭には罪人を収容する檻が設置されていました。

経済

絹織物、製糸、製紙、陶器などの伝統工芸が発展し、皇帝や官吏のための国営工場が設置されました。港湾には他国の商船が訪れ、宋との国境地帯では物々交換が盛んに行われました。また、地方でも経済が発展し、交易の拠点となる市が形成されました。

軍事

丁朝の軍は国内を10の軍管区に分け、紅河デルタの農民兵からなる十道軍が編成されました。十道軍は約10万人の兵力を有し、その革製の四角帽子は15世紀まで北ベトナムの軍隊の装備として採用されました。軍の最高司令官である十道将軍には黎桓が任じられ、実権を握りました。丁部領は出身地の愛州（アイチャウ）などの兵士からなる護衛隊も組織していました。

外交

丁部領は政策を中華王朝に報告し、その承認を得ていました。最初は十国の南漢、後に宋と交流を持ち、節度使や交趾郡王の地位を認められました。国内では皇帝を称し、宋に対しては王を名乗るという外交方針を確立しました。国号には「瞿」の字を用いることで、中国からの独立の意思を示しました。

歴代皇帝

先皇帝：丁部領（在位：966年 - 979年）
廃帝：丁璿（在位：979年 - 980年）

元号

* 太平：970年 - 980年

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