呉用

呉用（ごよう）

中国の古典小説で、四大奇書の一つに数えられる『水滸伝』に登場する主要な人物です。「智多星（ちたせい）」の綽名を持つ彼は、梁山泊で宋江、盧俊義に次ぐ第三位の序列を占める好漢であり、天機星の生まれ変わりとされています。字を学究、道号を加亮といいます。

比類なき智謀の持ち主として描かれる呉用は、梁山泊において公孫勝と共に軍師として采配を振るい、神算鬼謀とも称されるほどの策略を駆使しました。しかし、『三国志演義』に登場する諸葛亮孔明のような超人的、あるいは神がかり的な軍師像とは異なり、失敗もすれば、時には冗談を飛ばすといった人間味溢れる人物として描かれています。戦略や計略の立案に関しては右に出る者がいないほどの才能を示しますが、実践的な戦術や兵法においては、次席軍師の朱武に一歩譲る面もあったとされています。また、武器としては鎖分銅を用いる描写があります。

物語の冒頭では、彼は村里に隠れ住む書生でした。その非凡な智謀を見抜いた晁蓋に請われ、宮中への献上品である生辰綱を奪取する計画に協力します。棗売りに変装し、輸送隊に眠り薬を仕込んだ酒を飲ませるという巧みな策で生辰綱強奪を見事に成功させ、これを機に晁蓋らと共に梁山泊へと身を寄せました。

梁山泊に拠点を移してからは、組織の軍師として運営の中枢を担います。官軍による討伐軍に対しては、様々な奇策を用いてこれを撃退し、梁山泊の危機を幾度となく救いました。また、多くの有能な好漢たちを梁山泊に引き入れるための勧誘活動にも積極的に関わります。盧俊義や朱仝といった重要人物を仲間に加える際には、時には常識的な手法に囚われない、手段を選ばないかのような策を用いることもありました。自身の立案した策が裏目に出て、かえって組織を危機に陥れる失策を犯す場面も描かれますが、それでも仲間からの信頼は非常に厚く、特に頭領である宋江とは深い信頼関係で結ばれていました。梁山泊に集う荒くれ者の多い面々の中で、呉用は宋江の複雑な内面や心情を最もよく理解している数少ない人物の一人だったと言えます。

梁山泊が朝廷に帰順し、江南で起きた方臘討伐の戦いが終結した後、呉用は朝廷から官位を授けられますが、これを潔く辞退します。その後、宋江と李逵が悪辣な大臣たちの陰謀によって毒殺されたという悲報に接すると、かつての同志である花栄と共に宋江の墓所を訪れ、主君の後を追うように自らの命を絶ち、殉死を選びました。

呉用はその軍師としての生涯において、数えきれないほどの計略や策略を成功させてきましたが、時に目立つ失敗もありました。例えば、江州で囚われた宋江を救出しようとした際、公印の扱いを間違えて危うく計画が露呈しかけるというミスを犯しています。また、高廉が操る妖術に対抗しようとした際も、効果的な策を見出せず、かえって被害を拡大させてしまう場面がありました。

興味深い補足として、中国語における「呉用（Wú Yòng）」という名前は、「無用（Wú Yòng）」、つまり「役に立たない」という意味の言葉と同じ発音です。この同音異義語であることから、皮肉を込めて「まるで梁山泊の軍師のようだ」という形で、役に立たない物事や人物を揶揄する言い回しが生まれたとも言われています。

『水滸伝』という小説が現在の形になるよりも前から、宋江を中心とした梁山泊の盗賊集団に関する伝説や説話が存在しており、その中に呉用にあたるキャラクターが登場していました。例えば、南宋末期から元代初頭にかけて成立したとされる龔聖与の絵画「宋江三十六人賛」では、「智多星・呉学究」という名が三十六人のうち第二位に記されています。さらに、後に『水滸伝』の原型の一つとなった説話集『大宋宣和遺事』における梁山泊の物語では、宋江の下で筆頭となる第一位の好漢として「智多星・呉加亮」が登場しています（これは『水滸伝』における盧俊義に相当する「玉麒麟・李進義」よりも上位の扱いです）。『水滸伝』では、これらの先行する説話や伝説を踏まえた上で、姓名を呉用、字を学究、道号を加亮という設定に統合したものと考えられています。

また、森鷗外らが指摘しているように、呉用の字である「学究」は、北宋時代の宰相であった趙普のあだ名でした。趙普は野史において「趙学究」と呼ばれていたとされており、このことから呉用の人物像は趙普をモデルにしているのではないかという説があります。趙普は軍師として活躍しながらも、教養に乏しくしばしば誤字を犯した人物として知られています。この趙普の特性が、呉用のキャラクター造形に影響を与えた可能性が考えられます。『水滸伝』の中でも、呉用が文書作成において手違いを犯し、宋江を重大な危機に晒す場面が描写されており、この点も趙普のエピソードとの関連を示唆しています。

その他、日本の評論家である呉智英氏は、自身のペンネームの「呉」をこの『水滸伝』の呉用から取ったことを明らかにしています。

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