周興嗣

周興嗣（しゅう こうし、470年頃 - 521年）は、中国の南北朝時代、南朝の斉から梁にかけて活躍した官僚・文章家です。字は思纂。『千字文』の撰者として最もよく知られており、この書物は漢字学習や習字の初学者向けテキストとして後世に広く普及しました。

南朝宋代にあたる470年頃に生まれた周興嗣は、本籍こそ河南省にありましたが、家は代々安徽省当塗県に住んでいました。13歳で都である建康（南京）に上り、約10年間学問を修めました。斉の隆昌元年（494年）に秀才の資格を得て官界に入り、当初は桂陽郡の地方官を務めました。

梁の武帝が即位した天監元年（502年）、周興嗣は武帝に『休平の賦』を献上して称賛を受け、員外散騎侍郎に任じられます。その後も昇進を重ね、武帝の勅命により重要な詩文の作成を多く手掛け、給事中などを歴任。天監17年（518年）には門下給事中となり、これが彼の最高位となりました。彼は国家的な重要文書の起草も任されるなど、その文章力は高く評価されていました。

周興嗣の最も著名な業績は『千字文』の撰述です。これは、梁の武帝が皇子たちの書道練習のために、能書家・王羲之の真蹟から重複しない1,000字を選ばせ、それを基に韻文形式のテキストを作成するよう命じたものです。『千字文』は、合計250句からなる四字句の連続で構成され、「天地玄黄、宇宙洪荒」から始まり、「謂語助者、焉哉乎也」で終わります。暗誦しやすいよう押韻が施され、短い文章の中に天文学、地理、歴史、倫理道徳など、幅広い知識や文化が盛り込まれています。文字学習だけでなく、道徳教育の側面も持つ、初学者向けの優れた教材として機能しました。

『梁書』によれば、周興嗣には文集10巻や歴史関係の著述百余巻があったとされます。『皇帝実録』などの著作名が伝わっていますが、現在確認できる詩文は断片的な引用のみです。晩年は病に苦しみましたが、その才能は高く評価され、武帝をはじめ周囲の人々に惜しまれました。同時代の文人・任昉は、病がなければさらに高位に昇っただろうと評しています。周興嗣は521年、病により世を去りました。

『千字文』の編纂については、劇的な伝承があります。唐代の文献によれば、武帝の命を受けた周興嗣は、王羲之の1,000字の断片を一晩で整然たる韻文にまとめ上げたものの、その過労によって一夜にして髪が白くなったとされます。この説話から、『千字文』は「白首文」とも呼ばれるようになりました。この伝承は、『千字文』の完成がいかに困難で、周興嗣の才能が並外れたものであったかを物語っています。

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