咸宜帝

咸宜帝：阮朝の抵抗の象徴

咸宜帝（かんぎてい、Hàm Nghi、1872年7月22日 - 1944年1月14日）は、ベトナム阮朝の第8代皇帝です。在位期間は1884年から1885年と短期間でしたが、その生涯はベトナムにおける反フランス抵抗運動の象徴として、後世に大きな影響を与えました。諱は阮福膺（Nguyễn Phúc Ưng Lịch）であり、後に阮福明（Nguyễn Phúc Minh）と改名しています。

激動の時代に即位

咸宜帝は、第4代嗣徳帝の甥として生まれました。1883年に嗣徳帝が亡くなると、阮朝では権力闘争が激化し、短期間に多くの皇帝が擁立・廃位されるという混乱が続きました。そのような中で、1884年に阮文祥（グエン・ヴァン・トゥオン）と尊室説（トン・タット・トゥエット）によって、咸宜帝は第8代皇帝として即位することになりました。しかし、この年は第二次フエ条約（パトノートル条約）が締結され、ベトナム全土が分割され、阮朝が支配できるのは中部の一部のみという状況でした。

フランスへの抵抗

咸宜帝は、フランスの支配に対して徹底抗戦を主張しました。1885年7月5日には、尊室説と共に、フエに駐留していたフランス軍を奇襲攻撃し、王都を脱出してアンナン山脈の奥地へと潜伏しました。その後、地方の知識人たちに抗仏勤皇の大義を訴え、ゲリラ戦を展開しました。フランス軍はこれに対して、咸宜帝の兄である同慶帝を擁立し、咸宜帝に帰順を呼びかけましたが、咸宜帝はこれを拒否し、抵抗を続けました。

捕らえられ流刑へ

咸宜帝のゲリラ戦は、一時的にフランス軍を苦しめましたが、1888年11月、部下の密告によりクアンチ山中でフランス軍に捕らえられてしまいました。その後、咸宜帝は北アフリカのフランス領アルジェリアへの流刑が決定し、1889年1月にアルジェに到着しました。

アルジェリアでの晩年

アルジェでは、現地総督から郊外に屋敷が与えられ、年間25,000フランの生活費が支給されました。1904年には、現地でフランス人女性と結婚し、3人の子供をもうけています。その後、咸宜帝は1944年に胃癌により、アルジェ近郊の邸宅で亡くなりました。彼の死は、ベトナムの多くの人々に深い悲しみを与えました。

咸宜帝の遺産

咸宜帝の短い在位と、その後の抵抗運動は、ベトナムの民族意識を高める上で重要な役割を果たしました。彼の反仏抵抗は、後のベトナム独立運動の精神的な支柱となり、ベトナムの人々にとって不屈の精神の象徴として語り継がれています。咸宜帝の生涯は、激動の時代に生き、祖国のために戦った不屈の精神を後世に伝える重要な歴史として、ベトナムの歴史に深く刻まれています。


咸宜帝の生涯は、ベトナムの歴史において、重要な転換期における抵抗と不屈の精神を象徴するものとして、今もなお語り継がれています。

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