阮文祥

阮文祥（グエン・ヴァン・トゥオン）とは

阮文祥（グエン・ヴァン・トゥオン、Nguyễn Văn Tường、1824年 - 1886年2月）は、ベトナム阮朝末期の官僚です。彼は、1883年から1884年にかけて、育徳帝、協和帝、建福帝と3人の皇帝を相次いで擁立・廃位したことで知られています。その生涯は、フランスの干渉が強まる中で、宮廷内の複雑な権力闘争と深く結びついていました。

生い立ちと官僚としてのキャリア

阮文祥は、ベトナム中部の廣治省の平民の家庭に生まれました。父が阮朝に対する反乱に加担したため、当初は科挙の受験が禁止されていました。しかし、1848年に嗣徳帝が即位すると、何らかの繋がりを通じて嗣徳帝の庇護を得て科挙を受験し、見事に合格して状元となりました。1852年には刑部の尚書に任命され、官僚としての地位を確立しました。1862年に父が亡くなると、喪に服した後、再び官職に復帰しています。

フランスとの交渉と台頭

1858年以降、フランスがベトナムへの干渉を強めていく中で、1873年に嗣徳帝は阮文祥にフランスとの交渉を命じました。彼は数々の条約に署名しましたが、フランスからの信頼を得ることはできませんでした。しかし、フランシス・ガルニエ率いるフランス軍をハノイから追い出し、第二次サイゴン条約を締結した後、皇帝から内政と外交を委ねられるようになりました。1881年には、内閣の首相に就任し、政治の中枢を担う存在となりました。

摂政としての権力闘争

1883年に嗣徳帝が亡くなると、阮文祥は陳践誠、尊室説と共に摂政を務めました。阮文祥と尊室説が宮廷を主導しましたが、宮廷内には摂政以外にも権力を持つ勢力が存在しました。嗣徳帝の母である慈裕太皇太后、王妃の学妃、荘懿皇太后のいわゆる「三宮」も主導権を争っていました。また、阮文祥は学妃と密通関係にあり、複雑な宮廷内の権力構造の中で暗躍していました。

三帝の擁立と廃位

嗣徳帝には実子がなかったため、3人の甥を養子としていました。阮福膺禛（後の育徳帝）、阮福膺豉、阮福膺登の3人です。歴史家の范文同によると、嗣徳帝の本来の意は阮福膺登を帝位に就けることでしたが、摂政たちは三宮からの圧力に屈し、阮福膺禛を皇帝に擁立しました。しかし、育徳帝は即位後、阮文祥らの意に反する行動を取ったため、摂政たちは彼を処刑しました。一説には、育徳帝が阮文祥と学妃の不倫関係に介入したため、報復として殺害されたとも言われています。

次に、阮文祥らは協和帝を擁立しましたが、協和帝が摂政たちの影響力を排除しようとしたため、廃位を企てました。身の危険を感じた協和帝はフランスに接近しましたが、摂政たちはフランス人がいない隙に協和帝を殺害し、建福帝を擁立しました。しかし、建福帝も阮文祥と学妃の密通に気付き、2人を殺害しようとしました。しかし、学妃が先手を打ち、建福帝を毒殺しました。

阮文祥の失脚と晩年

建福帝の死後、咸宜帝が即位しますが、尊室説は勤王運動を開始し、徹底抗戦を訴えました。尊室説は咸宜帝を連れて山奥の新所城へ、さらに清国へと逃れ、援軍を求めました。一方、フランスは直ちに同慶帝を擁立しました。フランスは尊室説と咸宜帝に2ヶ月の猶予を与えましたが、彼らが抵抗を続けたため、1885年9月6日にフランスは阮文祥と尊室説の父である尊室訂をコンダオ諸島へ流刑に処しました。阮文祥は流刑中も反乱軍への指示を送り続けましたが、フランスによって財産を没収されました。その財産は1450万ピアストルにも上ったと伝えられています。

1885年11月23日、阮文祥は太平洋のタヒチ島へ流刑となり、翌年2月にその地で亡くなりました。1886年7月に遺体はフエにいる家族に返還されました。

阮文祥は、ベトナム阮朝末期の激動期に、宮廷内で大きな権力を握った人物であり、その行動はベトナムの歴史に大きな影響を与えました。

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