オッカムのウィリアム

ウィリアム・オブ・オッカム：14世紀を代表する哲学者と「オッカムの剃刀」

1285年、イングランドのオッカム村に生まれたウィリアム・オブ・オッカムは、中世後期スコラ学を代表する重要な思想家です。フランシスコ会修道士であった彼は、神学者、哲学者として多岐にわたる分野で独自の哲学体系を構築し、後世に大きな影響を与えました。彼の名は、しばしば「オッカム」と略され、これは彼の出身地から取られた通称です。

激動の人生：教皇との対立と亡命

オックスフォード大学で学んだオッカムは、30歳を過ぎても命題集講師の職にとどまっていました。これは、当時の学長であるジョン・ラットレルとの対立が原因でした。ラットレルはトミスト（トマス・アクィナスの思想を受け継ぐ者）の立場をとる一方、オッカムはフランシスコ会の会則の解釈をめぐり、清貧派の立場をとっていました。さらに、普遍論争では急進的な唯名論の立場を主張しました。

こうした学問上の対立は、1323年にラットレルから異端としてアヴィニョン教皇庁に訴えられるという事態を引き起こします。ローマ教皇ヨハネス22世と対立したオッカムは、1324年に異端審問のためにアヴィニョンへ召還されました。1326年には、教皇から破門を宣告されます。この頃には、同じく異端の容疑をかけられていたマイスター・エックハルトとも面会しています。

破門後、オッカムはフランシスコ会総長ミカエルとともにアヴィニョンから逃亡し、神聖ローマ帝国皇帝ルートヴィヒ4世の保護を受け、ミュンヘンに居住しました。オッカムはミュンヘンでペストにより没し、市城壁外のペスト死亡者用墓地に葬られました。

信仰と理性：個人的啓示と信仰の重要性

オッカムは、「信仰によってのみ人間は神学的真理に到達できる」と信じていました。彼は、神の道は理性に開かれておらず、神は人間の論理や合理性に縛られることなく世界を創造し、救済の方法を定めたと考えていたのです。オッカムの神論は、個人的啓示と信仰のみに基づいていました。ただし、信仰と理性が矛盾しないという考えも支持していました。科学を真理発見の方法と捉えつつ、科学のみが神を唯一の存在論的必然物とみなすことができると考えていました。

哲学的思索：スコラ哲学の改革と唯名論

スコラ哲学において、オッカムは方法論と内容の両面で改革を唱えました。その目標は、哲学体系の簡素化でした。彼は、先行する神学者の著作、特にヨハネス・ドゥンス・スコトゥスの著作を多く統合しつつ、スコトゥスの神の存在や恩寵といった概念、認識論や倫理学的意見を受け継ぎました。しかし、予定説、受難、普遍の理解など、いくつかの点ではスコトゥスと対立する立場をとっています。

オッカムは、個物を超越した普遍や本質といったものは存在せず、個物のみが存在すると主張しました。普遍は、人間の心が個物を抽象することで生み出されたものであり、心に外在する存在ではないという立場です。このため、彼は唯名論の開拓者、あるいは近代的認識論の父とみなされることがあります。しかし、普遍は単なる名前ではなく、心的な概念であるとする概念論の立場に立つとする見方もあります。オッカムの立場は、唯名論や概念論とは異なる「記号論」として捉えられることもあります。

オッカムの剃刀：存在論的倹約の原理

オッカムの重要な貢献の一つに、「オッカムの剃刀」と呼ばれる原理があります。これは、仮定された存在がなくても現象を説明できるなら、その存在を仮定する必要はないという、説明や理論構築における節約の原理です。これは「Entia non sunt multiplicanda sine necessitate」（必要以上に存在を増やすべきではない）という格言で表されます。ただし、この格言はオッカム自身の著作に明確に記されているわけではありません。オッカムは、自明、経験、権威によって証明されない限り、何も仮定すべきではないと述べていました。彼の存在論的倹約は、懐疑論的な立場にもつながります。人間の理性は、魂の不滅性や神の存在などを証明できないと彼は考えていました。こうした真理は啓示によってのみ知られると主張したのです。

自然哲学、知識論、政治思想

オッカムは、自然哲学、知識論、政治思想など、幅広い分野で著作を残しました。自然哲学においては、アリストテレスの『自然学』に注釈を書き、存在論的倹約の原理に基づき、アリストテレスの十のカテゴリーすべてが不可欠ではないと主張しました。知識論では、スコラ学の種の理論を否定し、普遍の理論を支持しました。直観的認識と抽象的認識の区別も提唱しています。

政治思想においては、オッカムは教会と国家の分離を唱え、世俗絶対主義の立場から君主の責任を説きました。彼の政治思想は、近代の自由民主主義思想にも影響を与えたと言われています。

論理学と文学への影響

論理学の分野では、ド・モルガンの法則に先立つ公式を残し、3値論理について考察しました。文学においては、チョーサーなどの作家に影響を与えた可能性が指摘されています。オッカムとその思想は、文学的唯名論という研究分野においても議論の対象となっています。

膨大な著作

オッカムは、論理学、神学、自然哲学、政治思想など、多岐にわたる分野で膨大な著作を残しました。彼の著作は、現代でも研究され続けています。彼の著作リストは参考文献に記載があります。

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