啓蒙専制主義

啓蒙専制主義とは

啓蒙専制主義（けいもうせんせいしゅぎ）、または啓蒙絶対主義（けいもうぜったいしゅぎ）とは、18世紀後半に東ヨーロッパを中心とした絶対王政国家において広まった政治思想です。この思想は、絶対君主が啓蒙思想に基づき、王権を行使することを正当化するもので、その君主は啓蒙専制君主と呼ばれました。

啓蒙専制主義の基本概念

啓蒙専制主義では、君主は国家と人民の幸福のために専制権力を持つことができるとされ、君主の絶対的な支配権が肯定されました。これは、従来の絶対王政の根拠であった王権神授説に代わるものとして、近代化が遅れていた国々で採用されました。プロイセンのフリードリヒ2世の言葉「君主は国家第一の僕（しもべ）」が、この思想を象徴しています。

啓蒙思想は、伝統的な君主権力を否定する一方で、未開の人々を啓蒙するためであれば専制政治も正当化するという側面がありました。自然法や社会契約説に基づく人権や平等の思想は、啓蒙専制主義でも認められましたが、それはあくまで開明的な君主の恩恵として与えられるものとされました。したがって、啓蒙思想で発達した権力分立などの政治体制も、君主の権力を補佐するものとみなされました。

啓蒙専制主義国家では、農奴制が廃止されるなど、一定の平等主義が導入されました。しかし、共和制やイギリスのような立憲君主制と比較すると、議会の権限は弱く、ロシアのように専制政治の下で農奴制が強化された例もありました。

歴史的背景

啓蒙専制主義は、プロイセンのフリードリヒ2世が専制権力を正当化するために用いた政治理論です。彼は啓蒙専制主義こそ社会を発展させる唯一の道だと考え、フランスの啓蒙思想に傾倒し、ヴォルテールを宮廷に招くなどしました。彼はこの思想を「無知や偏見と戦い、人々を啓蒙し、道徳を養い、人々の幸福をもたらすこと」だと説明しています。

啓蒙専制主義では、王権は神権ではなく社会契約によって生じたとされ、その契約によって専制権力が人民から委ねられているとされました。啓蒙専制君主は、人民の生活を改善することを権威強化の根拠としましたが、一方で人民の政治参加は拒みました。

この概念は、1847年にドイツの歴史家ヴィルヘルム・ロッシャーによって提唱され、以降、学術的な議論の対象となっています。

代表的な啓蒙専制君主

マリア・テレジア（オーストリア女大公）
フリードリヒ2世（プロイセン国王）
エカチェリーナ2世（ロシア女帝）
ヨーゼフ2世（オーストリア大公、神聖ローマ皇帝）
マフムト2世（オスマン帝国皇帝）

これらの君主たちは、啓蒙思想を取り入れながらも、自らの権力を維持し、国家の近代化を進めようとしました。

概念に関する論争

当初、啓蒙専制君主は啓蒙思想を掲げる絶対君主として理解されていました。フリードリヒ2世とヴォルテールの不仲な逸話は、啓蒙専制君主の体制が実質的に絶対君主制と変わらないとする見方を強めました。そのため、啓蒙専制君主は「啓蒙絶対君主」とも呼ばれることがありました。

しかし、近年では、この見解に対する批判が強まっています。絶対王政の時代を「社団国家」という枠組みで捉えることが主流になったためです。従来の絶対君主は、権力が個々の人民にまで及ぶわけではなく、身分団体や特権団体などの「社団」に限定されていました。絶対王政は、王権とこれらの特権団体の連携によって成立していたのです。

この観点から見ると、啓蒙専制君主は絶対君主とは異なると言えます。例えば、ヨーゼフ2世は貴族の特権を制限し、宗教寛容令を出してカトリック教会の特権的地位を弱めようとしました。これは、従来の絶対君主が「社団」を利用して権力を強化したのとは対照的に、「社団」の弱体化や特権剥奪によって君主権を強化しようとするものでした。つまり、啓蒙専制君主は「上からの改革」を通じて身分制社会を解体し、均質な国民を創出しようとしたと解釈できます。

フランス革命直前のルイ16世も、テュルゴーやネッケルの助言のもと、貴族や聖職者の免税特権を剥奪するなど、国家財政の危機を脱するために「社団」の枠を超えた改革を試みました。この点では、ルイ14世のような従来の「絶対君主」とは異なり、「啓蒙専制君主」の概念から理解する方が適切であると言えます。

まとめ

啓蒙専制主義は、18世紀後半のヨーロッパにおいて、社会の近代化と君主の権力強化を目指した政治思想でした。絶対君主制と啓蒙思想の要素を併せ持ち、その解釈には様々な論争が存在します。啓蒙専制君主たちは、上からの改革を通じて社会の変革を試みましたが、その一方で、人民の政治参加は制限され、その歴史的評価は複雑です。

啓蒙専制主義