善春

善春（ぜんしゅん）は、鎌倉時代に大和国（現在の奈良県）で活躍した仏師であり、善派に属していました。生没年は不詳ですが、その作品を通して、当時の仏教美術に大きな足跡を残しています。父は同じく仏師である善慶です。

善春の代表的な作品としては、以下のものが挙げられます。

元興寺聖徳太子像: 文永5年（1268年）に制作されたこの像は、現在も元興寺に安置されており、重要文化財に指定されています。聖徳太子の威厳と慈悲深さを表現した像として、高く評価されています。
西大寺大黒天像: 建治2年（1276年）に制作された大黒天像も、西大寺に現存し、重要文化財となっています。大黒天は財福の神として信仰されており、善春の像もまた、豊かな表情と力強い造形が特徴です。
西大寺興正菩薩叡尊像: 弘安3年（1280年）に制作された興正菩薩叡尊像は、善春の作品の中でも特に傑作として知られています。叡尊80歳の寿像として制作され、その写実性の高さが際立っています。老いてなお活力に満ちた叡尊の姿を、力強く量感のある体躯、そして動きのある衣文で見事に表現しており、鎌倉後期彫刻の中でも傑出した作品と評されています。

善春は、主に大和の西大寺において、叡尊に重用され、法橋という位にまで昇りつめました。叡尊は、鎌倉時代に戒律復興運動を推進した高僧であり、善春の才能を高く評価し、多くの像の制作を依頼したと考えられます。

善春の作品は、その写実性と力強い造形によって、鎌倉時代の仏教彫刻に新風を吹き込みました。特に興正菩薩叡尊像は、肖像彫刻の分野において、他に類を見ない傑作として、後世に大きな影響を与えました。

参考文献
奥健夫 『日本の美術536 奈良の鎌倉時代彫刻』 ぎょうせい、2010年 ISBN 978-4-324-08745-9

関連項目
善派
叡尊

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